【日本電線工業会創立70周年】〈高安晋一副会長(東京電線工業副会長)〉信頼性で成長分野捕捉 中小中堅支援へ技術者交流の場を ――70周年を迎えた所感から。

――70周年を迎えた所感から。

 「過去に父が副会長を務めており、創立70周年の節目に私が副会長に就いたことは大変感慨深い。様々な声を集めて伝えることで、中小中堅会員と工業会の距離をさらに近づけたいと思っている。業界のこれまでを振り返って機器用電線では、機器設計のコンパクト化などで需要が大きく減っていると感じる。ただ各社工夫を重ねながら生き残りを図っており、市場が減速した中でも中小中堅メーカーの数はほとんど変わっていない。電線の存在が不可欠な分野に皆さん注力している」

――電線が特に求められるのはどのような分野に。

 「鉄道や自動車、医療やロボット関連の市場では電線のニーズがある。鉄道関連はホーム柵の設置などが追い風になっているほか、自動車では電動化を受け弱電関連のハーネスも増える。ロボット関連は日本の中小中堅電線メーカーが強みを発揮しており、中国の政策などで需要拡大が見込まれる。今後も先人達が培ってきた信頼や技術力を生かし高まる需要を捉えていくことが重要だろう。電線メーカー、材料を供給する伸線メーカーともに新たな時代に追いつこうと努力する会社はさらに成長できる」

――工業会活動で力を入れたいテーマは。

 「中小中堅会員への支援としては現在公的な補助施策や環境関連制度の変更などに関する情報の収集・提供が行われている。今後は技術者が交流する場を作ることが大切だと思う。中小中堅メーカーの技術者が大手の技術に触れ、視野を広げることは非常に有意義だ。その機会があれば技術を含めて考え方を変えていくことができるし、考え方が変われば業績も変わってくるので業界の活性化につながるだろう」

――商慣習改善にも注力しています。

 「我々中小中堅メーカーが適正な収益を確保していくために商慣習の問題は非常に大きい。これは建設用だけでなく機器用の電線も同様だ。適正取引の指針を示すガイドラインの策定など、ここ数年進められてきた活動で着実に改善してきた手応えはある。今後はこの流れを定着させるよう、さらに努力していかなければならない」

――中長期的な市場動向についてはどのような見方を。

 「無線技術の発達などで電線の数量はさらに減少する可能性があるので、鉄道や医療、ロボットなど信頼性と付加価値が要求される分野で需要を取り込むことがさらに重要になってくる。顧客の声を集めつつ研究開発を加速して市場の変化に対応できれば、売上げや収益を保つことができるはずだ」

 「また自動車や鉄道では日系企業が海外で販売を拡大させているので、その需要に対応することも大切。自動車関連の分野については消費地で供給ができると、よりスムーズに取引を拡大させられると思う。また国外の市場では他国の電線メーカーと競合する局面もあるので、値段ではなく品質や性能で国際競争力を発揮しなければならない。国内・海外ともに独自の開発で新たな製品を創出して受注を得ていくことや、顧客の要望に小回りよく応えていくことが重要だ」

――研究開発の加速には人材確保・育成がカギになります。

 「様々な分野との競争もあり、技術者の採用は年々難しくなっている。その中で優秀な人材を確保するには日本人だけでなく、海外も含めて多様な人材を視野に入れていくことも有効だろう。熱意とコミュニケーション力があれば国籍は関係ない。また国籍にこだわらない広い視野に立った採用は、成長に向けた海外展開を進めるうえでもプラスになる」

――電線業界の地位向上への取り組みについては。

 「電線がなければ様々なものが成り立たないが、認知度はまだ低い。特に若い人たちの間で電線というものに対する認識が薄れている印象がある。これから電線業界に多くの人が集まってもらうには、電線をさらに広く認知してもらわなければならない。電線を一般にPRするサイトを作ったので、もっとアピールしていきたい。また中小中堅メーカーで構成する東日本電線工業協同組合との連携や、スマートフォンに対応した情報発信があってもよいと思う。社会での電線の活躍を知ることは、業界に関わる人たちと家族の誇りにもつながる」

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