正恩氏の滞在費、結局だれが払うのか

By 太田清

5月7日、中国遼寧省大連に到着し、専用機のタラップを降りる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=共同)

 歴史的な米朝首脳会談が12日に迫る中、金正恩朝鮮労働党委員長ら北朝鮮代表団のシンガポールでの滞在費をだれが払うのかに注目が集まっている。米紙ワシントン・ポストなどは、外貨不足に悩む北朝鮮が関係国による支払いを望んでいると伝えたが、その後、結局だれが負担するかについての公式な発表はない。同紙は北朝鮮側が川沿いにある高級ホテル「フラトンホテル」での金委員長らの宿泊を希望しているとしたが、そのスイートルームは1泊6千ドル(約66万円)以上する。 

 その後、北朝鮮の先遣隊がセントレジスホテルを視察したとの報道もされ、周辺で厳重な警戒も始まったことから、金委員長が宿泊するのは同ホテルではとの観測も出た。いずれにしろ、5つ星の高級ホテルで、金委員長が宿泊するであろうスイートルームを含め、代表団の滞在費が高額となるのは避けられそうもない。 

 費用負担について、米国は早々と拒否する考えを表明。国務省のナウアート報道官は「米政府は北朝鮮の宿泊費を支払うつもりはない」と断言。サンダース大統領報道官は米国が第三国に肩代わりを要請することもないと強調した。「敵国」である米国に費用を出させたとなれば北朝鮮の面目は丸つぶれになるだろうし、米政府が北朝鮮への支援を行えば、北朝鮮の核・ミサイル開発で続けている制裁と矛盾してしまう。なにより、米国内世論も黙っていないだろう。 

 ロイター通信などは、昨年、ノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が、同賞の賞金から費用の一部を負担する考えを明らかにしたと伝えたほか、FOXテレビなどによると、米国の旅行予約サイト「ホテル・プランナー」も代表団の推定10万ドル(約1100万円)の費用を持つと表明し、在中国の北朝鮮領事館にファックスを送ったというが返事はないという。 

 北朝鮮が海外での行事参加で、他国に費用負担を求めたのはこれが初めてではない。オーストラリアのSBSテレビなどによると、今年の平昌冬季五輪へ参加した北朝鮮代表団やサポーターの費用について韓国が約270万ドル(約2億9000万円)を拠出。また、選手の渡航費用については、国際オリンピック委員会(IOC)が負担した。韓国は過去に自国で開催されたアジア大会でも同様に北朝鮮選手団の費用の一部を持ったほか、離散家族再会事業でも一部費用を肩代わりしているという。 

 核兵器や大陸間弾道ミサイルを開発する資金はあるのに、首脳会談の費用負担を他国に頼み込むとは何とも解せない話だが、結局のところ、北朝鮮側が払わないと主張すれば、ホスト国であるシンガポールが持つしかないというのが大方の見方だ。

 同国のウン・エンヘン国防相は関連経費の一部は「歴史的な会談に少しでも貢献するため、負担するつもりだ」と説明した。米国の元駐シンガポール大使であるデービッド・アデルマン氏は米国のヤフーファイナンスに対し「首脳会談開催で警備などに多額の費用がかかるだろうが、シンガポールはそのことで『世界の良き市民』であるとの評価を得るというメリットをよく理解している。会談のホスト国になることのメリットはコストをはるかに上回っている」と指摘、会談成功のための滞在費負担は同国にとり何の問題でもないとの考えを示した。 (共同通信=太田清)

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