防災行政無線 時を伝える「定時放送」 メロディーが生活の一部に

 防災行政無線のスピーカーから流れる「夕焼小焼」や「七つの子」。メロディーに背中を押されるように家路を急いだ思い出のある人も多いだろう。本来、災害発生などを周知するためのものだが、時を伝える「定時放送」をする自治体も少なくない。西海市を中心に、県内の状況をまとめてみた。
 
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 午前11時半。長崎県西海市西彼町に軽やかな「アマリリス」が響く。庭で梅の実をもいでいた女性(73)は「もうすぐお昼。ご飯の支度しなきゃ」。午後5時には郷愁を誘う「夕焼小焼」。メロディーが生活リズムを作り出しているようだ。
 2005年に合併した同市は旧5町でメロディーと時間が少しずつ異なる。出勤や登校の合図は「牧場の朝」だ。記者が住む大瀬戸は午前8時。今春の赴任以来、慌ててごみ出しに走るのが早くも日課になった。西彼、崎戸は同時刻だが、西海と大島は1時間早い。
 住民の健康をおもんばかってか、午後3時に西海と崎戸で流れるのは「ラジオ体操第1」。市社会福祉協議会の職員(53)は「幼い頃から西海町では当たり前」と語る。
 午後5時。西彼以外のメロディーは「七つの子」。西海では午後6時に「遠き山に日は落ちて」も鳴る。市の担当者は「今のところ統一する話はない。住民の生活の一部になっている」。長崎市や諫早市、島原市でも、地域によって違う。
 
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 一方、05年に旧7町が合併した雲仙市は、機器更新をきっかけに08年4月から時間と音楽をそろえた。さらに今年4月からは午前8時の曲を「野ばら」から「雲仙市の歌」に変えた。担当者は「しばらくは昔の方がいいという声はあったが、10年たって慣れた」と話す。南島原市、五島市、壱岐市なども統一している。
 郷土愛を高めようと“わがまち”の歌を流す所も。正午にサイレンを流していた佐世保市は、13年から奇数月を「西海讃歌(さんか)」、偶数月を「佐世保市歌」に。当時の担当者は「候補を絞り、朝長則男市長に提案。どちらも名曲で一つに決められなかった」と振り返る。
 長崎市は毎月9日午前11時2分、大島ミチルさん作曲の被爆50年記念歌「千羽鶴」が流れる。犠牲者の冥福を祈り、核兵器廃絶を願う。
 
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 スマートフォンなどが普及した時代に「定時放送」は必要なのか。担当者は「防災行政無線の動作確認のため必要」と異口同音に語る。「鳴らないと市民から連絡があるのですぐに点検する」(大村市)。帰宅を促す目的もあり、対馬市では夕方、児童の声を流す。
 諫早市の担当者は「日々の放送に親しんでもらっていれば、災害や緊急時にも気付いてもらえる。まずは耳を傾けてもらうことが大事です」と語った。
 
◎ズーム:防災行政無線
 災害時の情報を無線で伝えるシステム。屋外スピーカーや屋内の戸別受信機で放送する同報系と、自治体などが現場とのやりとりに使う移動系がある。平常時に、同報系は自治体広報に使う例もある。ミサイル発射など、国からの情報を流す全国瞬時警報システム(Jアラート)も同報系を使う。総務省によると1978年に広域無線(同報系)と行政無線(移動系)の免許を一本化。「市町村防災行政無線」とした。

特色ある時報
防災行政無線の野外スピーカー=西海市大瀬戸町

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