インディ第9戦:ディクソンがクレバーな走りで今季2勝目。琢磨は我慢のレースに

 テキサス・モータースピードウェイで開催されたインディカー・シリーズ第9戦。9日に1.5マイルオーバルで争われた決勝レースは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)が制した。佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、7位でレースを終えた。

 新エアロとなっても2デイ開催のテキサス戦。しかも、プラクティスは気温が摂氏35度、路面温度は57度にもなる日中で、レースは夕刻から夜間にかけての開催となり気温差は大きい。ここまで難しくする必要は果たしてあるのかと疑いたくなるくらいだ。

 日中に行われた予選ではチーム・ペンスキーが強く、1-2-3を獲得。2連続ラップで平均220.613nmphをマークしたジョセフ・ニューガーデンがポールポジションで、2番手がシモン・パジェノー、3番手がウィル・パワーという順番だった。3人がコンマ1秒以下の差の中に収まっていた。

 インディ500同様にここでもシボレーがパワーの優位なのか……というとそうでもなくインディ500で速さを見せたエド・カーペンター・レーシングは14、18番手と低迷。AJフォイトの地元レースでトニー・カナーン(AJ・フォイト・レーシング)が予選6番手と奮闘し、拍手を浴びていた。

 ホンダ勢はルーキーのロバート・ウィケンス(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)の4番手が最上位。PPとは0.2250秒と結構な差があった。次が5番手のセバスチャン・ブルデー(デイル・コイン)だった。

 カナーンの後ろの7番手はスコット・ディクソンで、8番手はアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)、そして、9番手は佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)。

 決勝は9日夜7時45分過ぎのスタート。気温は34度と高いが、陽が西に傾いてコースの大半はグランドスタンドの影に入る。路面温度は43度から始まってゴール時には37度に下がってた。

 スタートからニューガーデンは順調にトップを保っていたが、タイヤのトレッド面が剥離する症状が出てピットに入り、そこからは苦しい戦いに終始した。最後のリスタートでフライングを冒して13位でのゴールとなった。

 ニューガーデンの後退後は予選2番手のパジェノー、予選4番手のウィケンスがバトル。カナダ人ルーキーは超高速オーバルでも速く、100周目にはトップに立つ。しかし、初優勝がオーバル……ということにはならなかった。

 3番手走行中だった終盤戦、エド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)のインに飛び込んだが、相手が降りてきて接触。2台揃ってクラッシュしリタイアとなった。

 予選3番手だったパワーもマシンのハンドリングに苦しみ、最終的にはルーキーと接触してリタイア。アウト側からオーバーテイクを仕掛けて来たザッカリー・クレイマン・デメロ(デイル・コイン)に気づかなかったのだ。

「ピットから無線で指示が出ている最中でスポッターの声が聞こえなかった。アウトに来たのを知らなかったんだ。ルーキーの彼が悪いんじゃない。こういうこともあるのがレース。次からまた頑張る」とパワーは話した。

 予選7番手だったディクソンは、1回目のピットストップの後にスピードアップした。113周目にはパジェノーを抜いてウィケンスのうしろ2番手に浮上。2回目のピットストップを終えるとトップに立った。

 ピット作業の速さも味方につけてのことだったが、それ以上に彼の走りが鋭かった。結局そのスピードは最後まで衰えることはなく、先週のデトロイト・レース1に続くシーズン2勝目をディクソンは挙げ、ポイントリーダーに立った。

■勝因はタイヤマネジメント

 予選で1-2-3だったチーム・ペンスキーだが、彼らのセッティング、走り方ではタイヤが持たなかった。特に右フロントのブリスターがひどかった。

 予選2番手だったパジェノーもブリスターに悩まされ続けたが、何とか上位にポジションを保ち続け、スタートと同じ2位でゴールした。最後はロッシから猛チャージを何度となく受けたが、真横に並ばれても前には出さないというバトルを何回か行いながらもポジションをキープし、今年初の表彰台に上った。

 ディクソンはチームのエンジニアリング能力を大きな味方として優勝した。彼らだけがブリスターの被害を最小限に抑えていたのは、プラクティスでタイヤのスクラビングを多めの周回数で行っていたからのようだ。

 高い熱を一度タイヤの中に発生させることで、剥離=ブリスターが起こりにくくなることを考えてのことだ。ディクソンのベテランらしいクレバーな走りも大きかった。タイヤの使い始めではスピードを少し落とし、タイヤを労わりつつ、どんな変化が起こるのかをチェックしていた。

 ピットを出てもすぐに全開にはせず、数ラップの間は少しペースダウンして走りタイヤの温度上昇を抑えた。それが119周の最多リードラップも記録してのシーズン2勝目に繋がった。

 ディクソンはキャリア通算43勝目を挙げた。先週の優勝でマイケル・アンドレッティとインディカー歴代3位タイの勝利数に並んだが、たった1週間でマイケルを抜いて歴代3位になった。もうディクソンより上にはマリオ・アンドレッティ(52勝)とAJ.フォイト(67勝)だけしかいない!

 ディクソンは、「8~10周はタイヤにトラブルが発生しないかチェック。慎重に戦っていた。ライバルのタイムがどの程度スティントの中で落ちるのかも見たかった。幸い、僕らはほとんどタイヤにトラブルが出なかった。入念に、多くの周回をこなしてタイヤに熱を入れる作業をこなしたからだろう」と話した。

 他のチームが気づいていなかったタイヤマネジメントを彼らだけは行えていた。

 優勝数で歴代3位になったことに関しては、「歴史に名前を残しているドライバーたちを凄く尊敬している。AJ.フォイト、マリオ・アンドレッティ、マイケル・アンドレッティ、アンサーファミリーといった人々と同じリストにディクソンという名前が並んでいることにまだ馴染めていない」

「チームに恵まれ、幸運でもあった。こんなに素晴らしい環境で戦えていることにとても感謝している」と謙虚にコメント。

「私はレースを愛し、インディカー・シリーズを愛している。このシリーズは地球上でベストのチャンピオンシップだ。サーキットの種類が多く、世界でもっとも難しいシリーズになっていると思う。このままレースを続け、更に勝ち星を重ねたい。今のインディカー・シリーズは本当に競争が激しいので、それができたらとても嬉しい」と話した。

 予選はシボレーがトップ3を独占したが、レースでは2位のパジェーを除くトップ9のドライバーがホンダユーザーだった

 琢磨は予選9番手から7位でフィニッシュした。予選後のファイナルプラクティスで好感触を掴んでいたが、決勝では前を走るマシンをオーバーテイクできずに苦戦。パスを完成できなかった時に後続の先行を許すという苦しい戦いとなっていた。

 しかも、第2スティントで右リヤタイヤにブリスター発生。早めのピットストップをせざるを得ず、大きく後退した。

 それでもコンスタントなラップタイムで粘り続けた結果、終盤の2回のアクシデントでフルコースコーションが出され、それらを利用してリードラップに復帰。最後はチームメイトのレイホールを追ったが届かなかった。

「今日のタイヤのマネジメントが重要でしたね。残念なことに、僕らは序盤に右リヤタイヤに大きなトラブルが出た時があり、早めのピットストップに入って2ラップダウンに陥りました」

「ダウンフォースがなさ過ぎるからタイヤが滑ってブリスターが出ていた。タイヤメーカーが悪いんじゃありませんよ。もっとオーバーテイクの多い、テキサスらしい接近戦をやりたかった。お客さんもその方が楽しめるでしょう。7位は良いリザルト。でも、スタートが9番手だったんだから、もっと上位でフィニッシュしたかった。チームメイトは作戦も良く6位。この勢いを保って次戦のロード・アメリカに乗り込み、トップ争いを戦いたい」と話していた。

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