万引き家族

 第71回カンヌ国際映画祭で最高賞に輝いた「万引き家族」。序盤のシーンで、主人公の親子は虐待されているらしい女児を拾って家に連れてくる▲女児は家族の中で、食事を与えられ、服を与えられて、自然にその一員になっていく。生気を取り戻していく女児を見ながら、観客の中には、親に虐待され「ゆるして」という悲痛なメモを残して亡くなった5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんの事件を思い出した人もいるだろう▲虐待された子は、優しく受け入れてもらえる居場所さえあれば、例え血や戸籍がつながっていなくても救われるのではないか。そう考えたくなる。だがこれはそんな単純な話ではない▲映画の中で女児の居場所となったのは、弱者同士が肩を寄せ合いながら悪びれず万引を繰り返す家族。是枝裕和監督は、その居心地の良さと同時にほころびも描き出す。そうして家族の絆とは何かを問い掛ける▲是枝監督がこの作品を着想したきっかけは、死亡した親の年金を不正受給していた家族へのバッシングだという。一方、東日本大震災以降、家族の絆がしばしば強調されることに違和感を覚えていたとも▲彼らを犯罪でつながる家族にしたものは何か。鑑賞後にほの見えてくるのは社会のひずみだ。それは結愛ちゃんを虐待死に追い込んだ現実とつながっている。(泉)

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