【新幹線3人死傷】10カ所以上の刺し傷 殺人容疑で男送検

 新横浜-小田原間を走行中の東海道新幹線「のぞみ265号」(東京発新大阪行き、16両編成)の12号車で9日夜、男が乗客をなたなどで切りつけ、男女3人が死傷した事件で、県警は11日、殺人未遂容疑で現行犯逮捕していた愛知県岡崎市、無職小島一朗容疑者(22)を殺人容疑で送検した。殺害されたのは兵庫県尼崎市の男性会社員(38)と判明。同容疑者は調べに対し「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と供述。県警は乗客を無差別に襲ったとみて、捜査を進めている。 

 送検容疑は9日午後9時45分ごろ、新横浜駅を発車して間もなくの車内で、被害者を刃物で切りつけ、殺害した、としている。県警によると、「新幹線の中で殺意があって人を刺したことは間違いない」と容疑を認めている。

 搬送された病院などによると、亡くなった男性には顔や首、腹など上半身に10カ所以上の刺し傷が確認された。司法解剖の結果、死因は失血死。首の傷が致命傷になったとみられる。ほかに27歳と26歳の女性2人が軽傷を負った。27歳の女性は「(襲われた際に)男性が止めに入ってくれた」と話しており、県警は女性をかばおうとした男性を執拗(しつよう)に切りつけたとみている。

 男性が勤務する会社は11日、都内で取材に応じ「大切な社員を失い、残念で言葉にならない。女性を助けようとしたと伺っており、勇敢な行動で、会社としても誇りに思う」とのコメントを出した。

 JR東海などによると、事件当時の乗客は約880人。緊急停車した小田原駅で被害者は搬送され、同容疑者は駆け付けた小田原署員に12号車で取り押さえられた。逮捕時に抵抗する様子はなかったという。

 県警は10日、静岡県三島市の車両基地で、車内を現場検証し、12号車で凶器とみられるなたや、網棚にあった同容疑者のリュックサックを押収。中には同容疑者の財布や免許証、携帯電話が入っていた。

◆馬乗りで何度も切りつけ

 事件は土曜の夜、乗車率約7割の新幹線車内で起きた。高速で移動する閉鎖された空間での凶行。その詳細が県警の捜査や乗客の証言から明らかになってきた。

 県警によると、殺人容疑で送検された小島一朗容疑者(22)は12号車の最後尾から3列目、2列シートの通路側にいた。新横浜駅を通過して間もなく立ち上がり、隣の窓側に座っていた女性(27)の左肩付近を、刃物でいきなり切りつけたという。女性は身をかがめ、同容疑者の前を通り抜けるようにして後方へ逃げた。すると今度は、通路を挟んで左隣にいた女性(26)の頭や背中などを切り付けた。

 殺害された男性(38)は、同容疑者の2列後ろにいた。この状況をみて女性をかばうように前に進み出たとみられる。

 12号車にいた三浦市の女性(29)は「きゃー」という叫び声を聞き、立ち上がると、同容疑者が男性に馬乗りになり、無表情のまま無言で殴りつけるような様子を見たという。周囲の乗客は一斉に別の車両に逃げていった。「周囲に血の海ができていた。何が起きたのか分からず、男に背を向けるのも怖くて、目を離さずに必死に逃げた」と話した。

 12号車に駆け付けた男性車掌は、何度もなたを振り下ろす同容疑者に、取り外した座席シートを盾代わりにして制止したが応じなかったという。

 非常用ボタンが押され、新幹線は綾瀬市内で緊急停車後、小田原駅へ移動。県警の捜査員がなだれ込み、同容疑者を取り押さえた。男性は上半身を集中的に刺されていたが、防御時にできる手の傷がほとんどなかったといい、県警は早い段階で致命傷を負ったとみている。捜査関係者によると、男性の足に果物ナイフが刺さっていたことも分かった。県警は車内の防犯カメラ映像の提供を受け、当時の状況を調べている。

 同容疑者は「事件前は長野で数カ月、野宿のような生活をしていた。長野で刃物を購入し、事件当日に東京へ行き、新幹線に乗った」と説明していることも判明。県警が押収した同容疑者のリュックサックには大量の衣類が入っていた。逮捕時は東京駅で購入した名古屋行きのチケットを所持していたという。

新幹線殺傷事件の状況

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