【F1カナダGP 無線レビュー】ガスリーが8ポジションアップ。手応えを掴んだトロロッソ・ホンダ

 新型PUを投入したトロロッソ・ホンダ。しかし、ブレンドン・ハートレーは1周目に不運に見舞われ、チームはピエール・ガスリーに望みを託すこととなった。
 
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トロロッソ(以下:STR)「大丈夫か?」ブレンドン・ハートレー(以下:HAR)「あぁ大丈夫だ。彼(ランス・ストロール)が突っ込んできたんだ」

 新型パワーユニットを実戦投入したトロロッソ・ホンダだったが、1周目の事故でブレンドン・ハートレーは姿を消し、降格ペナルティで19番グリッドスタートのピエール・ガスリーに望みを託すこととなった。

STR「リスタートはモード3、最終コーナー手前でリチャージオフ。セーフティカーライン1からレース再開だからその前にオフにしろ」

 5周目にレースが再開されると、ターン1でカルロス・サインツJr.と接触しコースオフしたセルジオ・ペレスがガスリーの前に戻ってきた。

STR「PER(ペレス)が苦しんでいるぞ」

 ガスリーは新型パワーユニットの出力を生かしてすぐさまこれをパス。13番手までポジションを上げ、さらに前のケビン・マグヌッセンに襲いかかっていく。中団勢の中でガスリーのペースは明らかに速かった。

STR「モード7も使って良いぞ」

 9周目にはパワーユニットのモードを切り替えてバックストレートでマグヌッセンもパス。アゼルバイジャンGPでの失敗から学び、トロロッソとホンダ、そしてドライバーの間でエネルギーマネジメントに関する理解を深め合ったことでこうした臨機応変さが発揮されるようになった。

STR「(マグヌッセンを抜いて)よくやった、ALO(フェルナンド・アロンソ)の前のLEC(シャルル・ルクレール)は苦しんでいるぞ」STR「周りの他の誰よりも速いぞ」STR「前のALOより0.2秒速いぞ」STR「ターン2の出口でリヤをケアしろ」

 スタートダッシュを生かすためハイパーソフトを履いてスタートしたガスリーだったが、ウルトラソフトを履く他の中団勢よりも速く、さらに長くタイヤを保たせた。前戦モナコGPに続き、このあたりは長けている。

 23周目にピットインを済ませると、前はザウバーのルクレール、後ろはペレスという実質10番手争い。ずっと追いかけてきたアロンソはルクレールをアンダーカットすることに成功していた。

 依然として中団の中で最速のペースを見せたガスリーだったが、ストレートの速いザウバーはなかなか追い抜くまでには至らず膠着状態に入ってしまった。ガスリーはややリヤのスタビリティ不足に苦しみ、それがブレーキング時の安定性と加速時のトラクション不足に繋がっていた。

 エンジニアからは再三に渡ってルクレール攻略を促す指示が飛ぶ。

L30:STR「LECをオーバーテイクする必要がある」L31:STR「彼はブルーフラッグを受ける。この周にLECを抜く必要がある」L37:STR「スタビリティ向上のためにエントリー4を使え」

 44周目には首位のセバスチャン・ベッテルが追い付いてきて周回遅れにされ、その際にベッテルの1秒以内で走ることでバックストレートでDRSを使って抜こうとするが、それも上手くはいかなかった。

STR「さっきの周はLECより0.2秒速かった。キャッチできるぞ。VET(ベッテル)の(周回遅れにされた際の)DRSを生かせ」

 そうこうしているうちに、ガスリーのタイヤは状況が厳しくなってきた。前走車の背後を走ることでダウンフォースを失い、スライド量は増えてしまうからだ。

ガスリー(以下:GAS)「タイヤのデグラデーションが厳しいよ、フロントもリヤもだ」STR「了解。LECは0.1秒速い、彼を捕まえる必要がある」STR「前のLECはブレーキに問題を抱えている。ポイント争いをしているんだ、彼を捕まえろ」

 52周目、ルクレールはレース序盤からブレーキ温度の不安定さに苦しんでいたが、ガスリーの後方には25周も若いタイヤに履き替えたばかりのロマン・グロージャンが迫ってきて、前を追うことよりもディフェンスを考えなければならなくなってきた。

STR「後ろのGROは2秒差、スーパーソフトで15秒7で走っている」

 そしてレース終盤に入って燃費セーブも最後の帳尻合わせが必要になってくる。ステアリング上に表示される目標燃料使用量と実際の使用量のギャップ表示を見ながら、ストレートエンドでスロットルをオフにするリフト&コーストと呼ばれる技法で燃費を稼いで目標値に合わせ込んでいく。

STR「リフトオフするときはブレーキを完全にオフにしておけ。後ろのGROはリヤタイヤに苦しんでいるよ。ダッシュボード上の(燃費)ターゲットに従って走ってくれ」

 レース最終盤を迎えると、グロージャンはガスリーの1秒以内に迫りDRSも使ってくる。それでもガスリーは燃費セーブをしながらも巧みにグロージャンを抑え込んでいた。チームからもオーバーテイクボタンを使ってパワーユニットの出力を絞り出すことで少しでも優位に立とうと指示が飛ぶ。

STR「ディフェンスするのにオーバーテイクボタンを使っても良いぞ」STR「ターン10からの立ち上がりでオーバーテイクボタンを使え。次が最終ラップだ」

 69周目、誤ってチェッカードフラッグが振られてしまうがライン通過の5秒前にエンジニアから指示を受けていたガスリーはスロットルを緩めることなく最後までグロージャンを抑え込んだ。

STR「これがラストラップだ、チェッカーフラッグは無視しろ」

 ルクレール攻略はならず、結果は11位。しかし中団グループの中で最速の部類に入るペースで走り、19番グリッドからここまで挽回できたことにはチーム全体が大きな手応えを掴み取っていた。

STR「P11だ、ピエール。とても良いレースだった。あとちょっとの差でポイントを獲ることができなかったのは残念だった」GAS「本当に残念だよ。なぜかLECを抜くスピードがなかった。でもみんなのハードワークにはとても感謝している。間違いなくパワーユニットのアップグレードも素晴らしかったし、これから僕らはとても良いレースができるはずだ」STR「そうだね、ありがとうピエール」

 その手応えは、次のフランスGPで間違いなく結果へと繋げてくれるはずだ。

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