【片言隻句】「節度」を守る

 何事も「度を超す」とロクなことにはならない。異様に安い価格での販売、異様に高い価格での買取り…急激に既存の秩序を壊すような振舞いも反感を買いやすい。何事にも「節度」は大事だ。

 例えば、近時話題になっているニッケル系ステンレス(18―8)の地区スクラップ価格。

 東海地区の扱い筋の一部からは「ニッケル価格が上昇し、同系製品のメーカー販価も順次値上がりしているのに、スクラップ価格(市況)は奇妙にも上がらない。どうしてか」との不満が漏れてくる。不満を漏らす側にも、漏らされる側にも言い分はある。費用をかけてスクラップを集荷・選別し供給する側にとっては死活問題だが。

 足元、18―8スクラップの発生は少ないが、ステンレスメーカーへの入荷に基本的に不都合はない。生産コストを抑えたいという考えも働く。無理に買値を上げる環境にはないと、買う側は判断する。その結果、ニッケル価格、ステンレス製品価格の推移とスクラップ価格の推移が一致しない環境になりやすくなる。

 一方、売る側の緊張感は高まる。前述の不満だ。中には、あきらめムードも出る。発生工場などは、製品等の値上がりを見て、自社のスクラップ買取り価格の値上げを要求するだろう。そんな緊張感の中で「度を超した」値差での購入を特定の取引先に是認したような情報がもし流れたら。

 「市況」は価格のバロメータだが、商売上の「適度な値差」というのは当然ある。品質や顧客対応などによる取引先の選択、契約の見直しなどもまた、競争社会ではよくある。リアルな社会には様々な思惑も働く。

 しかし万が一、先述のような情報が流れたならば、緊張した市場関係者の不公平感は募るだろう。「市況とは何なのか」と。

 私たちはこうした場合にどうすればいいだろうか。すべては「節度」の問題。背景は複雑だろうが「市況」というものを大きく逸脱した取引は、結果的に自らをも破滅に導く可能性がある、とは言えないか。

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