身近な歴史遺産 佐賀 長崎「登録文化財」巡り 長崎市旧市長公舎(長崎市)

 長崎県長崎市中心部の国道34号沿いには官公庁の庁舎や民間のビルが立ち並び、車の往来も激しい。そこを市役所から諏訪神社方面に歩いていると、周囲の建物とは不釣り合いな古い洋風の2階建ての建物が見えてくる。門柱には「長崎市市民活動センター」の看板、その下に「登録有形文化財 文化庁」の銘板がある。2009年、国土の歴史的景観に寄与しているとして国の文化財に指定された旧市長公舎だ。
 この建物は1922(大正11)年、曳(ひ)き網漁業を営んでいた当時の市議、山野邊寅雄氏の邸宅として建築された。終戦後の48年3月、市は寄贈を受け、ここに博物館を移転。その7年後の55年3月、博物館は新しくできた長崎国際文化会館に移り、邸宅は89年まで市長公舎として使われた。田川務、諸谷義武、本島等の3市長の時代に当たる。
 本島氏の1期目の79年5月から約1年間、市の秘書課長だった宿輪啓祐さん(85)は「正月、市長はあいさつに出掛けて不在だったので、代わりに私たち秘書課の職員が公舎の玄関で、訪れる支持者らに応対し記帳してもらった」と振り返る。
 外観は、勾配(こうばい)が途中で変わるマンサード屋根が特徴。れんが、木材、石材の部分が混在し、大正期の建築技術がよく残っているという。裏手には庭園もある。室内は部屋と部屋の間を廊下が通り、南向きの半円形の応接室など洋風邸宅の趣が残っている。
 邸宅は公舎時代の後、いったん教育研究所となり、伊藤一長氏が市長を務めていた2001年10月、市はベンチャー企業支援センターを開設。だがセンターは5年半で「役割を終えた」として閉鎖された。その1年半後の08年10月、現市長の田上富久氏は、邸宅を市民活動の交流拠点にしようと市民活動センター「ランタナ」をオープンさせた。各部屋は事務作業や打ち合わせ、会議などに利用できるほか、貸し事務室には五つの団体が入っている。
 今もふらりと見学に訪れる人がいるという旧市長公舎。一市議の私邸だった建物は当時の趣を残したまま時代を超え、市民の元に引き継がれている。

 ◎ちょっと寄り道/長崎公園/木々に囲まれ、県内最古

 旧市長公舎前の国道34号を横断し、裏通りに入ると、自然に囲まれた長崎県最古の公園「長崎公園」が広がっている。
 長崎公園は1873(明治6)年に制定され、毎年秋に長崎くんちが開かれる隣の諏訪神社とともに、市民に親しまれている。
 広さは約2万7千平方メートル。茶屋がある「日本庭園」、遊具で遊べる「丸馬場」の両エリアのほか、樹齢数百年の木々が茂る「諏訪の杜」エリアもあり、道路の中央に鎮座する巨大クスノキの両側を車が走るという珍しい光景も見られる。
 また「どうぶつひろば」ではニホンザルやインドクジャクなど19種類の生き物が飼育され、一部の動物には餌を与えることができる。同公園管理事務所(電095・823・6080)。

 ■アクセス 駐車場はない。市役所前バス停で下車し、国道34号沿いを諏訪神社方面に5分ほど歩くと右手にある。または長崎電気軌道の諏訪神社前電停で降りて、市役所方面に徒歩3分。

建築当時の特徴を残している建物の内部。市民が事務作業や打ち合わせに利用できる
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