世代の経験をつなぐ

 今年100歳になる西彼長与町の中野清香さんが先日、長与ニュータウンの集まりで戦争体験を講話した。中野さんは20歳で出征、27歳の時にニューギニアで終戦を迎えた▲劣悪な環境下で飢えに苦しみ、栄養失調とマラリアで多くの戦友を失った話を、1時間半の予定を超えて詳細に語り続けた中野さん。戦地の悲惨な実態をできる限り伝え残したいという執念を感じさせた▲聴衆は60~70歳代が中心。戦争時は子どもだったか生まれていないかという世代だ。戦後懸命に働いて経済成長の担い手となり、1970年代に開発された長与ニュータウンにマイホームを建てた人々▲その長与ニュータウンは今、住民の高齢化に直面している。かつて活気のあった町も、子世代の多くが転出。一から築いた地域コミュニティーを若い世代にどう受け渡すかという課題を抱える▲戦後73年。時の歩みは止まらない。それぞれの世代が1年に一つずつ年を取る。それに伴い世相が移り変わり、時代の価値観も直面する問題も変化していく▲そんな世の中で、一つの世代が獲得した経験や知恵や教訓を未来へと引き継いでいくことは、簡単ではないのだろう。でも何とかそれらを次世代につなぐことはできないか。若い人の姿を見かけなかった会場で、ぼんやりそう考えた。(泉)

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