得意の左斜め45度 コウチーニョの一撃で先制
ミネイロンの惨劇から4年――。あの悪夢を払しょくするべく6度目の世界制覇を狙うブラジルが、序盤から攻勢を強める。起点となったのは、やはりネイマール。ゴールドに染め上げた新たなヘアスタイルで初戦に臨んだ背番号10は、2月に右足中足骨骨折の重傷を負った影響を微塵も感じさせずに、頻繁にボールを引き出しては突破を図る。
11分にはそのネイマールがコウチーニョのパス交換からゴール前にラストパスを供給。そこに飛び込んだパウリーニョがビッグチャンスを迎える。しかし、3分前にもダイナミックなフリーランでエリア内に侵入していたこのMFのシュートは、スイスGKゾマーの好守に遭い、ネットを揺らすには至らなかった。
試合が動いたのは20分。相手のクリアボールを拾ったコウチーニョが、左斜め45度という自身が最も得意とするゾーンから目の覚めるようなミドルを突き刺したのだ。ファーポストの内側を叩いて、ゴールマウスに吸い込まれたこの一撃を防げるGKは、おそらく世界のどこにもいないだろう。それほど極上の一撃が決まり、スタジアムのボルテージは最高潮に達した。
チッチ監督が犯した最大のミス “省エネ”でスイスに反撃を許す
先手を取ったブラジルが、ここから一気に畳み掛けると考えた者は少なくないはずだ。しかし、セレソンは攻勢の手を緩めてしまう。前線から激しくプレスをかけるのではなく、ボールラインより全員が後ろに下がるリトリートで守り、スイスにボールを持たせる余裕を与えてしまったのだ。まるでこの試合だけでなく、もっと先の戦いを見据えたような“省エネ”への切り替えは、チッチ監督がこの日に犯した唯一最大のミスだろう。
これでボールを持つ時間が長くなったスイスは、ショートパスを繋ぎながらサイドに突破口を見出そうとする。ロドリゲスとリヒトシュタイナーの両サイドバックが同時にファイナルサードまで攻め込むほど、リスクを恐れない果敢な攻撃で同点弾を目指した。ただ、T・シウバとミランダの両CBを中心に要所を締めてくるブラジルの守備陣に阻まれ、なかなかシュートまで持ち込めない。そのもどかしい雰囲気を断ち切ったのが、セットプレイだった。50分、シャキリが放ったCKにツバーが頭で合わせ、試合を振り出しに戻すことに成功したのだ。
先制した後にプレイの強度を落としていたセレソンは、ようやくギアチェンジ。60分にフェルナンジーニョ、67分にR・アウグストとフレッシュな人材を投入し、スイスの統率のとれた守備を崩しにかかる。だが、頼みのネイマールは凄まじい運動量と粘り強い守りが際立ったベーラミのマークに大苦戦。ゴール前で輝きを放つより、ピッチの上に倒れこむ場面が目立つ。
それでも、ただでは転ばないのがネイマールという男。88分には自らのヘディングで、90分には途中出場のフィルミーノに合わせる絶妙なFKで、相手ゴールを脅かした。だが――。いずれもスイス守護神ゾマーの牙城を崩すには至らず、タイムアップ。結局、先制後のペースダウンが仇となり、セレソンは白星発進を逃すことになった。
[スコア]
ブラジル代表 1-1 スイス代表
[得点者]
ブラジル代表:コウチーニョ(20)
スイス代表:ツバー(50)
文/遠藤 孝輔
theWORLD202号 2018年6月18日配信の記事より転載