子供たちにもっと野球を WBSCが「ミニ・ベースボール」普及プロジェクト

WBSCがアジアで展開する「ミニ・ベースボール」とは?【写真:Getty Images】

10年で野球ソフトボール人口10億人達成計画の切り札

 世界野球ソフトボール連盟(以下:WBSC)は、近年、野球普及活動に力を入れている。イタリアで「Baseball5(5人制野球)」第1回の国際大会を開催し、ホームページで中国、香港、マカオ、台湾アジア圏を中心に、「ミニ・ベースボール」を順次導入すると発表するなど、精力的に活動範囲を広げている。

 今回、ミニ・ベースボールの公式サポート企業に任命されている中国語圏アジア最大のスポーツマーケティング会社の1つ「PCGブロス」に、現状や将来展望について聞いた。

 WBSCのリッカルド・フラッカーリ会長は公式ホームページで「ミニ野球ソフトボールのグローバル推進計画は、これから10年で野球ソフトボール人口10億人達成の目標に合わせたもの。野球やソフトボールの簡易版で道ばたや街中などの狭いところでも楽しめ、世界中誰でもできるスポーツだ」とコメントしている。

 ルールなどを簡易化した野球形式のゲームであり、6歳~10歳の子どもたちに導入することが狙いだ。使用する用具も軽く、打撃はティー台を使用し、ブラスチック製のベースを使用しており、すべての道具がカバン1つに収まる仕組みとなっている。

 普及に先駆け、イベントや道具販売が実施されている台湾では、どのような進展をしているのか、PCGブロスのミニ・ベースボール担当者に話を聞くことができた。

子ども達に基本を学びながら野球を楽しんでほしい

 野球人気が高い台湾では、子ども達の野球普及を目的に、子ども向け野球が求められていた。同時期に、WBSCは野球のさらなる普及を目指しており、イタリア野球協会に属する2名のイタリア人がミニ・ベースボールを開発した。発明したクラウディオ・マントヴァーニ氏、ダヴィデ・サルティーニ氏は「野球を全くわかっていない人に、いかに簡単に覚えられるかを念頭に考え、ルールを形成した」と言う。WSBCの思惑と台湾が求めるものが合致し、普及が始まった。

 ミニ・ベースボールは、3種類のボールがあり、技術レベルにより、種類を変えている。公式ルールはまだ、正式には決定しておらず、状況により塁間の距離を変えるなど、手探りで最善なものを作り上げようとしている。

 台湾では「楽楽安全棒球」といった、グローブを使わない初心者向けの簡易的なベースボール型競技が存在していたが、リアルであり、なおかつ簡単な野球を求め、ミニ・ベースボールではグローブを使用し、打撃ではティー台を使い、バットはTeeボールと同様のゴム素材を使用している。

 少年野球に組み込むのではなく、初心者のワンステップとして想定している。台湾の少年野球チームは学年やレベルでAチーム、Bチームのように組分けをしている。そこで4年生以下のカテゴリーを中心に、ミニ・ベースボールを導入していく予定である。

未来の子ども達のため、教える指導者にも学習の場を設置

 2018年3月、台南にある高雄アリーナにて、ミニ・ベースボールに関するイベントを行った。そこでは、子どもたち用にデザインされたWBSCミニ競技用のインフレータブル(ふくらまし式)ミニ球場を作成し、過去、台湾五輪代表を銀メダルに導いたレジェンド黄忠義氏が先頭に立ち、紹介や自ら競技に参加するなど、イベントに参加した。施設内には、屋台もあり、ファンフェスタのようなイベントとなった。

 PCGブロスのミニ・ベースボール担当者は「ミニ・ベースボールの普及や指導は、新たな職として確立する可能性もある。台湾プロ野球選手引退後のキャリアとして、野球に関する仕事、野球に携わり続けられる、といったシステムを確立できれば幸いだ」と今後のプランを語ってくれた。

 台湾少年野球の指導者は、大会に参加する際、台湾野球協会が実施する講習の受講が推奨されている。また、2018年初旬、発明者のマントヴァーニ氏やWBSC関係者が中心となり、台湾の指導者や教員、記者を集結したミニ・ベースボールの指導講習が実施された。今後は、公認指導者の制定などを計画している。

 最後に、ミニ・ベースボールのプロモーションをするPCGブロスの担当者へ、日本への進出計画を尋ねてみると、「日本はTeeボールが存在する。そこへ横に割って入りミニ・ベースボールを普及させるつもりは全くない。それよりも中国、香港、マカオやアフリカ圏など、支援が求められ、野球のさらなる普及を目指す地域を中心に、プロモーションしていきたい」との答え。ただ、共有できる部分は分かち合いたいという。

 野球は、日本では、若年層の競技人口が減少しているといえども、まだまだ人気のスポーツだ。しかし、世界には、野球を知らない人々も存在する。「道具が多い」「ルールが難しい」といった課題に向き合い、誰もが楽しめるような野球を展開するミニ・ベースボールを今後も注目したい。

(Full-Count編集部)

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