町中で、防災を意識しない人には見えない、意識した人にだけ見えるミステリーゾーン? ブロック塀は、机の上に置いた板チョコのように板状で倒れてくる

熊本地震で崩れたブロック塀(益城町)

熊本地震のあとに函館で地震もありました。

日本中どこでも「うちの地域は安全だ」なんていう場所は存在しないと、リスク対策.comの読者の方はよくご存知だと思うのですが、全国あちこちで講演すると、この安全神話の根強さに驚かされます。

地域が安全であるということは、誇らしい事でもあるので、広がりやすいのでしょうね。いくつかパターンを感じているので、感じたまま書いてみると

オーソドックスなのが、「地盤が固い説」!人気ナンバーワン!

揺れは伝わりにくいかもしれないけど、割れたら逆に大地震が起こるわけで、ヨーロッパの地震がないところの固さとは比べようがないよと学者の先生たちが何度も、何度も、何度も言われていても、不動の人気を誇っているように思います。中には、活断層の真上にもかかわらず、「家を建てるとき、掘ったのを見たけど、地盤が固かったから大丈夫」という方にもお会いしました。固さの基準が人により違うのもこの説の特徴です。

次が、「今までずっと地震がなかった説」。これは、阪神淡路大震災前の兵庫県で語られていましたが、隠れた活断層の存在の前にあえなく打ち砕かれた神話です。でも、未だに健在で、NO2ではないかと思います。

他には、なにかしらの権威に依拠するパターン。天皇家の文書を保管している場所が地域にある・・というのは、心動かされるものがありましたが、 NHKのなんとかという施設があるから・・というのは、NHKは「備える防災」などの防災番組もあるからの信頼なのでしょうかね??また、大仏さまや⚪︎⚪︎さまがいるからなど、信仰の対象として語られると、安全神話を否定する自分が悪人に思えてしまって、なかなかつらいものがあります。

権威に依拠とは違うのかもしれませんが、「東日本大震災から避難された人がうちの地域を選んでくれたから安全説」。これについては、複数聞いたうちすべてが、行政に関わる方の発信でした。逆に住民の方が「行政はそう言うのですが、本当に安全なのでしょうか?」と不安を吐露されることも結構あるという残念な安全神話です。

そんな訳で、非常に根強い安全神話たちに、私が真っ向から説明するのは難しいなと感じています。地震の詳しいメカニズムから説明することは、研究者のみなさまにお任せすることにして、私は、仮にその地域が本当に安全だとしても、対策をとらなくなることでかえって危険になっている事例を説明しています。

ブロック塀は、机の上に置いた板チョコのように、板状で倒れる

まずはこのブロック塀の写真見てください。「うちの地域は安全です。地震はずっとありません」という地域の保育園で講演した際、隣にあったブロック塀です。

もうすでに崩れそうですね(汗)。

安全だと言われている所ほど、いつ倒れてもおかしくないブロック塀が放置されています。どの部分が危ないかわかりますか?

全国コンクリートブロック塀協会では、危険なブロック塀をまとめています。

http://www.jcba-jp.com/daijiten/c03/index.html

詳しくは上記をしっかり見ていただきたいのですが、さきほどの写真は、下の部分が崩れそうで危ないだけではないのです。協会も震度5で倒壊すると言っている、透かしがあるため、鉄筋が入らないブロック塀なのです。

透かし入りのブロック塀

下が石垣のブロック塀もよく見かけます。やはり、鉄筋が入らないので倒れやすいです。

ひびがすでに入っている、透かしがある、石垣の上にあるブロック塀に「地震だ火を消せ」の今は使われていない(今は、「地震だ。まず身の安全」)古い標語がそのままになっている

その他にも震度5で倒れてきた大谷石。

東日本大震災(震度5の地域)で上部が落ちた補強されていない大谷石

万年塀といわれ、あちこちですでに斜めに傾いていることが多い塀。

すでに傾いている万年塀(地盤が固いといわれている地域)

防災を意識しない人には見えない、意識した人にだけ見えるミステリーゾーン?

すでに危険なブロック塀ですが、不思議なことに、防災を意識しない人には見えない、意識した人にだけ見えるミステリーゾーンになっています。防災講座後、昨日の道が今日は違って見えたと、話題になることが多いのです。あなたがもし「見える人」なら、まわりの人に聞いてみてください。世の中には「見えない人」の方が多いことに気づくでしょう。不思議ですね!この奇怪な心霊現象をマスコミがミステリー現象として、徹底取材してくれたらいいのになと思っています。

ブロックは、1個10kgあります。ブロック塀を記事にするとき、イラストレーターが、1個ずつばらばらに落ちる図を書いてくださることが多かったのですが、最近は、机の上に置いた板チョコのように、板状で倒れる事を知っている人も増えてきました。10個×10段あれば1t、倒れてくるって事ですよね。

熊本地震で板状に倒れるブロック塀(益城町)

でも、防災の本などでは、未だに「ブロック塀の近くにいたら、危ないので離れてください」と、のん気に書いているわけです。

ですが、これは、都内の通学路を撮った写真です。

都内の通学路。両側にブロック塀が・・

両側ブロック塀に挟まれていますが・・・。こどもや車椅子の方、ゆっくりしか歩けない方、絶対逃げられませんよね。大人でも危ないかもしれません。

熊本地震でも、みなさん、あっという間に体の自由がきかなくなったとおっしゃっています。直下で地震が起きれば、カタカタ揺れたり、「あ。地震だ」と思う余裕もなく、激震に襲われるのですから、逃げるなんて無理でしょう。

実際、1978年宮城沖地震(震度5)では、死者28名中18名がブロック塀倒壊による犠牲者です。通学中の小学生もいました。熊本地震の熊本市でも、29歳の男性がブロック塀倒壊により命を落としています。残念でなりません。

埼玉県で講演したとき、偶然、宮城沖地震で亡くなった小学生と同じ登校班だったという方が参加されていました。その方によると、亡くなったお子さんは、とても足が早い子で、地震のその時、一生懸命走って逃げようとしたとおっしゃっていました。

逃げきれないのに、こどもに逃げろと指導するなんて、無責任極まりないと思います。大人が危険なブロック塀をなくさないとダメでしょう。

東海地震対策をずっと行ってきた静岡県全域では各市町村がブロック塀撤去に10万円の助成金を出し、別の塀にすると25万円助成金がでます。

神奈川県では、地域ごとに金額は異なりますが、平塚市や鎌倉市などブロック塀撤去に本気が見える自治体もあります。

自治体のブロック塀撤去と改修の助成金例

うちは安全という精神論が広がっている地域よりも、地震が来ることを前提にブロック塀の倒壊防止に動いている自治体のほうが、安全に思えます。

宮城県はブロック塀で多くの命を失った教訓を生かし、東日本大震災までに対策をとっていました。

河北新報2016年5月1日「<熊本地震>「想定外」宮城の教訓届かず」
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201605/20160501_13015.html

ただ、どんなに助成金がでていても、所有者が動かない限り危険なブロック塀は減りません。

所有者の方は、地震でブロック塀が倒壊した場合、損害賠償責任を負う可能性を知っておいて欲しいです。

日本司法支援センター法テラス
「地震とブロック塀 補修進めよう 倒壊の責任負う可能性」
http://www.houterasu.or.jp/news/houtekitrouble/page0000173.html

リフォーム業者の方も知っておいていただき、リフォームをすすめていただきたいです!

まとめると、

1981年以前の旧耐震基準の塀→震度5で倒壊する危険性あり。               ↓地震=不可抗力として免責されない可能性が高い→補修の必要あり新耐震基準の塀→震度5で倒壊しないはずなので、震度6で倒壊しても不可抗力として免責される可能性はある。
               ↓しかし、近年震度6の地震も頻発しているので、免責されないと変化する可能性あり。

上記の河北新報記事では熊本地震についてこうも書かれています。

「壊れたブロック塀は、(塀を直角に支える控え壁などを義務付けた)建築基準法や施行令をクリアしたケースがほとんどなかった。素人が積んだ塀も多いようだ」そう分析するのは、熊本地震の被災地を調査した古賀一八福岡大工学部教授(建築構造)。

旧基準を満たさないブロック塀が倒壊して、だれかの命を奪ってしまったら・・・持ち主は、被災して大変になるだけではなく、命に対して、損害賠償責任も負う可能性が高いのです。無免許で車を運転し、人の命を奪うことと、地震大国で危険なブロック塀を放置することは同じように悪質なのでは?それでも放置を続けるのでしょうか?そして、そんなブロック塀は、熊本だけでなく、全国いたるところでみかけます。

個人や地域の力で危険なブロック塀を撤去

とはいえ、暗い話題ばかりではありません。地震で他者の命を奪うことがないよう個人で塀を撤去、改修をした方や、助成金を使わなくても、地域の力で危険なブロック塀を撤去したところもあります。

こちらは大谷石の補強工事。東日本大震災で倒れかかった思い出のある大谷石を、きちんと鉄筋をいれたうえで、改修された写真。大切なものなら、お金をきちんとかけて、安全にしてあげる。通行人に対する優しさが嬉しいです。

左が東日本大震災直後、東京都下の住宅の大谷石塀。よく見ると、電柱側に倒れ掛かっている。右が鉄骨で補強し、積みなおした大谷石塀(写真提供:GLホーム/霧生秀一氏)

10mのブロック塀は10万円あれば撤去できます。講演を聞いたあと、すぐ自宅のブロック塀を改修してくださった方もいました。

ブロック塀撤去の助成や緑化助成がなくても、地域によっては地元木材をつかうと助成金がでる場所があります。

2011年1月に開催された地域おこしのプランニングコンテストで、「やっかいもの扱いされる杉を有効利用して、ブロック塀をおしゃれな塀に変える」プランをだしたところ、準優勝をいただきました。(防災に関心が薄い時期だったので、準優勝だったかなとひそかにに思っています)

その時、杉の有効利用は大変なんだと審査員の方にたくさんつっこまれました。特に、山から運ぶのに費用がかかるということでした。でも、プランに興味をもってくださった建築事務所の方が、杉塀を施工主さんに提案してくださって、私は杉の調達を実験してみたのですが、びっくりです。今は宅配便で運べるから、山から送料2000円で配送できちゃいました。

できないと思う既成概念が杉の有効利用を難しくしている事例もあるのかもしれません。その後、東日本大震災が起こり、ブロック塀を地元材の塀に変えるプランの実践が滞っていますが、一緒に取り組みたい建築関係の方がいらっしゃったらwelcomeです♪

嬉しい取り組みはまだあります。宮城沖地震で同じ登校班だった方がいた埼玉県の講演では、その方が、講演後に意見を言ってくださいました。宮城県では、1978年以降、ブロック塀撤去に取り組んできた。でも、ここに引越したら危険な塀だらけだった。地震に対する意識が薄いのかと不安になりますと。

すると、参加者でもあった中学校の校長先生がすっと立ち上がり、おっしゃいました。「本当に学校のまわりは危険な塀だらけだ。ここにいるみなさんの力で、なくしていきましょうよ!」と。

会場には、乳幼児連れのパパママ、学校PTA関係者、子育て支援者、公民館館長さん、消防団員と地域のいろいろな方がいらっしゃったのですが、満場一致の拍手がわき起こりました。

いまでも、思い出すと鳥肌がたってしまいます。

危険な塀について、撤去できない理由は聞き飽きたので、もういりません。実際にこうすれば撤去できたよ!そんな事例を共有できる方のご意見だけお待ちしています!一緒にミステリーゾーンバスターズになりましょう♪

(了)

(編集部注:4P目のブロック塀の記述について、一部文言を修正いたしました。2017年3月5日)

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