プレイボタンを押すとすぐに現れたのは、日本武道館に押し寄せるスーツ姿のおじさんの群れ……。どんな始まり方だと面食らったが、これぞ本作、フランク・シナトラの来日公演当日の様子であった。
伝説的なキャリアのなかでも奇跡的な公演一つと言われる、1985年4月に行われた東京・日本武道館でのステージ。本作はその様子を記録したDVDに、2枚のCDがついた豪華版だ。日本盤DVDでは初となるドルビーデジタル5.1chが採用され、懐かしの映像を鮮やかなサウンドで楽しむことができる。
シナトラが日本に来た……。それはいうまでもなく彼の実力であるわけだけれど、その実力を理解し、大挙して武道館に駆けつける大人たちを中心としたファンがいたからで、今、そのような(アイドルではない)アーティストがいるだろうかとふと、考えてしまった。
1980年代。テレビの音楽番組もまだまだ生バンドが当たり前だったあの頃。シナトラを照らすスポットライトの色合い一つにも懐かしさを感じて、ついつい懐古的な気持ちになってしまう。デジタルな音楽もいいけれど、こういう世界「も」永遠なれと、心から願わずにはいられない。
(ユニバーサルミュージック・5000円+税)=玉木美企子