支え合いの現場から 地域包括ケアの行方 デイサービスの実践〈3〉

◆山坂多い地域、鍵は送迎 NPOに期待

 午後3時、神奈川県秦野市の「広畑ふれあいプラザ」から、いきがい型デイサービスを終えた利用者が出てきた。

 駐車場に車を止め、待ち受けていたのが、NPO法人「野の花ネットワーク」(白川和子理事長)スタッフの高橋實さん(69)。3人の送迎を担当している。

 3人を座席に導くと、一人一人に声を掛けながらシートベルトを締めてあげる。「健康状態などにも注意しています。感謝してもらえるのが大変うれしいですね」。高齢者同士、和気あいあいと帰宅の途に就いた。

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 高齢者が通うデイサービスにとって、車による送迎は不可欠だ。

 特に、住民ボランティア運営のいきがい型デイサービスでは、元気な高齢者が対象だった時代から、送迎の担い手確保が大きな課題だった。シルバー人材センターに委託していた時代もあったが、事故が重なり辞退されてしまった。その後、タクシー会社に委託したが、経費の増大が問題となった。

 そこで大きな役割を果たしたのが、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)の「訪問型サービスD」(移動支援)だ。

 デイサービス本体の「通所型サービスB」(住民主体による支援)とともに総合事業に移行することで、介護保険制度の中で一定の財源を確保した。送迎事業者には間接経費だけを補助するという仕組みで、事業者の社会貢献に期待を寄せた。

 これに応じたのが、野の花ネットワークと、プラザと同じ町内にある特別養護老人ホーム「湘南老人ホーム」。78人(2017年5月10日現在)の利用者のうち送迎が必要な47人について、野の花ネットワークが9人(週3日各1台)、湘南老人ホームが38人(週4日各2台)の送迎を担当した。

 湘南老人ホームは、併設の通所介護の送迎の前後に、いきがい型デイサービスの送迎を行っている。「送迎時間が重ならなかったので、地域社会への貢献という経営理念から受託しました」という。

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 一方、野の花ネットワークでは、訪問型サービスDの事業化を評価し、その展開に大きな期待を寄せている。

 同団体は1994年の設立以来、心身の状態から一人では外出困難な高齢者、障害者の移動サービス(福祉有償運送)に取り組んできた。

 「秦野は山坂が多く、公共交通機関も貧弱。外出を諦める人も多い。やればやるほど赤字になりますが、命に関わる事業なのでどうしても続けたい」と事務統括責任者の澁谷路世さん。

 訪問型サービスDの受託は「利益は出ませんが、赤字を出さずに車1台を維持できることは、NPOにとって大きいです」という。「いきがい型デイサービスに限定せず、広く訪問型サービスDが使えるようになれば」と語った。

いきがい型デイサービス利用者の送迎を行う野の花ネットワークの高橋實さん(左)

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