【この人にこのテーマ】〈「課題解決支援プロジェクト事業」の経緯と成果〉《東日本一般缶工業協同組合・多田統一特別顧問》25年ぶり調査、組合と会員を活性化 対話の機会創出、業界再生への糸口探る契機に

 東日本一般缶工業協同組合は昨年度、東京都中小企業団体中央会が実施する「課題解決支援プロジェクト事業」を活用し、組合員を対象に経営実態調査とヒアリング調査を実施した。コーディネーターを務めた組合の多田統一特別顧問にプロジェクトの経緯や成果を聞いた。(中野 裕介)

――まずは一般缶と接点をもつようになった経緯を教えて下さい。

 「もともとはミカンやタケノコといった農産物の缶詰製造業を研究しており、私にとって当時の『スチール缶』は『内容物を保存する容器』との認識にとどまっていた。その後教職に就き、資源リサイクルや環境問題の教育を通じて、一般缶をはじめスチール缶が果たす重要な役割に関心をもつようになり、東日本一般缶工業協同組合の活動に携わるようになった」

 「私が東日本一般缶工業協同組合で同様のプロジェクトに参画するのは2回目。『一般缶製造業の技術と歩み』を編さんした1993年以来、25年ぶりだ。当時は東京都経営資源高度化対策事業(人材育成計画事業)として、組合員各社の現状把握に努めるとともに、1960年代から70年代にかけて組合員間で相次いだ工場の地方移転に焦点を当てて実態調査に当たった。その結果として、会員が自分たちの業界の歴史を知るツールとして、限られた文献や当時を知る先達の話などを基に、時代背景を交えて今日(こんにち)に至る一般缶の製造や技術の進歩をつづった」

――四半世紀ぶりとなるプロジェクトのテーマは。

 「『一般缶業界再生への道』だ。その解決の糸口を抽出する契機にするべく『組合組織の存在意義と組合理念の確立』『組合財政と共同事業の見直し』を研究テーマに設定した。プロジェクトを主導した特別委員会の委員長を務めた竹内雅夫副理事長が報告書のはしがきで触れているように『報告書の助言や提言を通じて、組合員一人一人の意識改革が促進され、自助努力で自らの事業を立て直しの糸口を見出していき、さらにその結果として組合組織の活性化が推進されること』に意義があると、私も受け止めている。まずは組合としてデータを収集、蓄積し、組合員にフィードバックし、各事業に活かしていくことが肝要であり、プロジェクトはその出発点に位置づけられる」

――今回のプロジェクトでは、前回の経営実態調査に加えて、ヒアリング調査も実施しました。

 「前回の質問項目を踏襲しつつ、回答者が自分の意見を自由に書ける、記述欄を設けた。組合員によっては、工場の立地であったり、経営のトップ自ら操業に携わったりするなどして、なかなか事務局に行くに行けないケースもある。そこで発想を転換し、事務局が自ら組合員のもとに出向くことで、いろいろな話を聞き、あるいは相談に乗ったり、情報提供したりするなどして、お互いに『結びついている』との意識をもつ機会を作り出せる」

 「直接顔を合わせて話をすることで、いま経営者が抱えている課題を肌感覚で捉えることができる。何より組合員企業自身が『組合活動に参画している』という意識をもってもらう仕組みづくりが求められる。同時に記述、ヒアリング双方の形式を通じて本音の部分を聞き出すことで、何か新しいものが見えてこないかと期待した面はある」

――一連の調査では、どのような結果を得られましたか。

 「アンケートの回答率は対象組合員数が40社に対し、32社から回収し、回収率は80%に上った。組合員数は25年前の78社に比べて半減に近いが、経営者の意識や主な業態に大きな変化はなかった。そんな中で、組合員企業の経営者と組合の関係を表す象徴的な数字が出てきた。全体を100%とすると、50%・30%・20%だ。選択式の項目においては、おおよそこの傾向が見受けられた。最も多い50%は『組合はよくやっている』。30%は『組合の活動に一定の理解を示すものの、どのように評価していいか分からない』。残りの20%は『無関心』もしくは、社業が多忙などの理由で組合活動に参画できない、などだ」

 「25年の時を経て、少子高齢化や消費者の志向変化、他素材との競合などの影響もあり、一般缶の生産量は漸減し、組合員数もピーク時の半分近くで推移している。また100年を超える一般缶業界の歴史にあって、これまで培われた伝統的な企業体質は、さまざまな指標や係数を見る限り、前回調査とほとんど変わらない。新規商品の開発に力を入れ、既存商品でさらに高い品質や生産性を目指すといった一般缶に対する考え方は世代を超えて踏襲されている」

品質や生産性の向上目指す/高い意識、世代超えて踏襲

――このほど報告書を作成し、5月には成果普及講習会を開催しました。

 「報告書は▽一般缶製造業の歴史▽一般缶製造業の現況▽一般缶業界のあらまし▽経営実態調査結果とその分析▽一般缶業界の活性化と組合の果たす役割―と全5章の構成でまとめた。25年前に編さんした内容に今回の調査結果や分析、専門家の見解などを追記した。前回にはなかった回答者による記述はすべて報告書に反映し、経営者の率直な思いが見て取れるよう工夫した」

――調査を進める上で、どのような課題に直面しましたか。

 「東日本一般缶工業協同組合は各委員会が主導し、多彩な組合事業を展開している。一人一人のメンバーにおいては、当然のことながら自分の会社のこともある。それらの合間を縫ってプロジェクト事業のスケジュールを組んでいかなければならない。また台東区や中央区をはじめ、東京都心に事業所が集中していた昔と違い、大半の組合員が郊外に移転しており、ヒアリングに行くにも、相応のアクセスが必要となるなど時間的な制約に直面した」

 「調査を通じて一定の改善点が見えてきたものの、あくまで戦略を考える手がかりに過ぎない。単にデータを集計するだけではなく、こうした機会を通じてみんなで議論することが重要だ。その点では、プロジェクトの特別委員会を構成する委員が集まるたびに、自由に語り合ってもらえたことも成果の一つだ。特定のトピックに偏らない、ざっくばらんな会話の中から生き残りに向けて何らかのヒントが得られるかもしれず、また事業活動のアイデアとして現実的な視点に落とし込んでいけるかもしれない。例えば『鉄学カフェ』と銘打って、そうした対話をする場を恒常的に設けることも選択肢のひとつに挙がるのではないだろうか」

――先程は、今回のプロジェクトは「組合や組合員企業の活性化に向けた出発点」にあると。

 「東日本一般缶工業協同組合としてどのような取り組みに舵を切れるのかを考える上で、今後は『地域社会との連携』が大きなテーマの一つに挙がる。報告書で明治大の森下正教授が執筆している提言の一つでもある。小中学生をはじめ、どれぐらいの子どもたちが一般缶業界の門戸をたたくことになるかは定かではないにせよ、歴史をひも解く限り、東日本一般缶工業協同組合が事務局を置く秋葉原から上野、浅草にかけての界隈は、かつて一般缶の工場が立地していた一帯。直接かつ即座に組合員企業の収益に結びつかないかもしれないが、将来的な太いパイプを構築する上でも、地域とのつながりは欠かせない。」

 「その点では、上部団体の全日本一般缶工業団体連合会の取り組みは好例だろう。小学校の授業や社員研修の教材として一般缶を紹介するDVDを制作したり、近くの台東育英小学校(東京都台東区)で昨年出前講座を実施したりしており、これらを継続することで新たな展開に道筋がついてくるかもしれない。異業種との交流も有効だ。いずれにせよ、業界の推移を定点観測していくためにも、きちんとデータを整理して、次につなげていく意義は計り知れない。報告書は業界内外で活用してもらえるよう製本し、情報の発信や共有につなげていきたい」

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