星野君の二塁打

 少年野球チームの星野君は、監督のバントのサインに従わず、バットを振って会心の二塁打を放ち、チームを勝利に導く。だが監督は、星野君がチームの約束を破り和を乱したと指摘。次の試合の出場を禁じる▲この話は、小学6年のある道徳教科書に載っている「星野君の二塁打」という読み物だ。指導上の狙いは、集団の中で自分に求められる役割を自覚すること。星野君の気持ちを考えてみようと副読本が問い掛ける▲前文科省事務次官の前川喜平氏が先日の長崎市の講演で、集団に対して個人の自己犠牲を求める話として批判的に紹介していた。ただし、この話を教材にしても、教師の工夫次第でいい指導ができると▲確かに、この話にはさまざまな意見が出そうだ。「チームプレーは大事。監督の指示は守るべき」「勝利の立役者にペナルティーを科すのはおかしい」「そもそもバントのサインが間違いだったのでは」…▲教室でも、指導の狙いを超えて、こんな幅広い議論に発展したらいい。文科省は「考え、議論する道徳」を掲げる。大切なのは、一つの答えにこだわらず、多様な考えを知った上で共通了解の可能性を探ることだろう▲現場の教師には、子どもたちの多様な声をすくい取り、心の成長を促す指導が求められる。その苦労と重責を想像する。(泉)

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