変化したオージースタイル ある程度通用もまだ発展途上
数年前までのオーストラリアは典型的なパワーファイターだった。激しすぎるフィジカルコンタクトを好み、最後方から放り込む。地上戦より空中戦、ショートパスよりロングパス、創造力より闘争本能を重視する武骨なスタイルだった。決して近代的ではないものの、体力自慢の選手に適したゲームプラン、オーストラリアならではの闘い方には説得力があった。
しかし、ファン・マルヴァイク体制下のチームは、やはりオランダ色が強い。GKはロングボールを蹴らない。基本的に2枚のCBから始まるビルドアップは、中盤センターを経由する。非常に丁寧だ。この仕組みは初戦のフランス戦でもそこそこ通用したため、ファン・マルヴァイク監督も少なからぬ手ごたえをつかんでいたのかもしれない。34分、ロギッチがペルーDFラモスとアドビンクラの間をスピードのある縦パスで抜き、左サイドからクルーズがクロス。詰めていたレッキーには合わなかったものの、スピーディーなパスでビッグチャンスを迎えた。ファン・マルヴァイク監督が求めるフットボールに違いない。
代表チームにしろクラブチームにしろ、監督の色が出るのは当然。肉体の強さに高度な技術が加われば鬼に金棒だ。オーストラリアの新たな方針を全否定するつもりはない。ただ、パススピードが緩く、テンポも単調だ。縦パスも少ない。ゆったりとしたボールをゆったりとしたテンポで足もとにつないでいるのだから、ペルーDFにすれば読みやすい。前半、オーストラリアは190センチの長身FWユリッチの高さを利用するケースは一度もなく、ペルー最終ラインの裏を狙う攻撃も皆無に等しかった。
戦い方を徹底できない豪州 意地を見せたペルー
53分、ファン・マルバイク監督は、ユリッチに代えてケイヒルを投入する。決して大柄ではないが、抜群のジャンプ力と空中バランスの良さで、世界にその名を轟かせたヘディングの名手である。采配の意図は明らかだ。
ところが、徹底できていない。中盤を省略し、ゴール前に放り込むケースも前半に比べれば増え、迫力のあるCKもあったとはいえ、何人かの選手はパスをつなぎたがっていた。ケイヒルが入った時点で、基本プランが地上戦から空中戦に切り替えられたにもかかわらず、ロングボールをためらうシーンも散見した。パスフットボールは中途半端で、得意とする肉弾戦も遠慮気味……。これでは勝てるはずがない。
一方、ペルーは最後の最後で意地を見せた。グループリーグ突破の可能性はゼロでありながら、集中力と闘争本能に磨きをかけ、2-0の快勝を収めている。18分、カリージョが決めた右足ボレーは大会屈指のスーパーゴールだ。50分、ゲレーロの1点はオーストラリアDFミリガンにディフレクトする幸運にも恵まれたが、ペナルティボックス内ではつねにシュートを選択する彼の積極性が生んだものだ。1982年のスペイン大会以来、9大会ぶりの出場で勝点3。フランスとデンマークもおおいに苦しめた。ペルーは胸を張って凱旋できる。
[スコア]
オーストラリア代表 0-2 ペルー代表
[得点者]
ペルー代表:カリージョ(18)、ゲレーロ(50)
文/粕谷 秀樹
サッカージャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。
theWORLD211号 2018年6月27日配信の記事より転載