『機巧のイヴ 新世界覚醒篇』乾緑郎著 続編は探偵小説にロボット

 前作『機巧のイヴ』(2014年刊行)は、時代小説にロボットを融合させたSF伝奇小説の傑作だった。SF+時代小説ファンは私を含め、続編たる本作の刊行を心待ちにしていたはずだ。

 前作は江戸を模した架空都市・天府を舞台に、本物の女性と見紛う精巧で美しい機巧人形(=ロボット)伊武と天才技師たちが織りなす5つの連作短編集だった。続編は剣豪ものか、はたまた人情ものかと思いを巡らせていたら……なんと選ばれた舞台は100年後、1893年の米国シカゴ万国博覧会の会場だった。この展開を誰が予想し得ただろう。

 万博に参加する日本(文中では日下國)は、パビリオンとして本国から移築した巨大遊郭に伊武を展示しようとする。万博の利権をめぐり、日本人の私立探偵が産業スパイのように暗躍し、伊武の争奪戦を繰り広げる。100年の眠りから覚めた伊武は……。

 作者は今回、ハードボイルド探偵小説にロボットを繰り込むという離れ業に挑んだようだ。建築現場の労働争議つぶしといった題材は、探偵小説の古典たるハメットの『血の収穫』を想起させる。前作に劣らぬそのチャレンジ精神に脱帽する。

 舞台が国際化し、米国の人種差別や日中戦争をモチーフに取り込むなど構えは壮大だが、タイトルロール伊武との有機的な結びつきはない。何より前作でクールな美女キャラとして活躍した伊武が後景に退いているのは残念だ。

 物語は舞台を日本に戻して今後も続きそうだ。また予想を見事に裏切ってくれるか。

(新潮文庫 630円+税)=片岡義博

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