スルガ銀行 3時間を超える株主総会ドキュメント

 6月28日の上場企業の株主総会の集中日、「シェアハウス関連融資」問題で揺れるスルガ銀行(TSR企業コード:449001504、東証1部)の第207期定時株主総会が沼津市内で開催された。岡野光喜・代表取締役会長も出席。問題の発覚後、初めて公の場に姿を見せた。岡野会長は「多大なるご心配をおかけしていることを深くお詫びする」と発言。米山明広・代表取締役社長は「お客様本位ではなかった」とこれまでの営業姿勢を総括した。
 怒号も飛び交い、3時間以上も紛糾した株主総会を追った。

6月28日9時10分
 スマートデイズ・スルガ銀行被害弁護団(以下、被害弁護団)の河合弘之団長(さくら共同法律事務所)、金裕介弁護士(同)とシェアハウスオーナーが沼津駅前で落ち合う。総会会場への道すがら、打ち合わせを行う。

9時15分
 被害弁護団、オーナーが会場ビル入り口に到着。多くの報道関係者が待ち構える。

株主総会の会場前(沼津市内、6月28日9時15分)

株主総会の会場前(沼津市内、6月28日9時15分)
9時25分
 会場入り口での入場受付。9時から受付が始まっており混雑はない。混雑を見越して受付所まで迂回の誘導路が組まれている。これを見た株主の一人が「なぜ、こんなに空いているのに迂回させるのか。そこからおかしい」と受付係員に大声で抗議。

9時30分
 会場内。株主席は横25列、縦16列程度の配置。すでに半分ほどが埋まっている。株主数人がパソコンを取り出すと、スルガ銀行の係員が使用を控えるよう要請する。

総会冒頭から緊急動議

9時52分
 スルガ銀行の係員が後方に着席する女性に「ちょっと」と声をかける。その女性が周囲の同年代の女性数名に声をかけ、一緒に会場を後にする。数分後、女性たちが席に戻る。

9時59分
 スルガ銀行の役員らが壇上に着席。どの役員の顔も緊張で表情が固いようにみえる。

10時00分
 定刻通り総会が開始。米山社長が進行しようとすると、後方に着席していた株主の一人が「まず岡野会長、謝ってください」と大声で発言。一部の株主から拍手が起こる。
 米山社長が「私が議長を務めさせていただきます」と発言すると、先ほど銀行の係員から声をかけられた女性たちを含め、会場が大きな拍手に包まれる。社外取締役の大石佳能子氏は所用のため欠席が伝えられる。

10時3分
 米山社長が「シェアハウス関連融資等について、ステークホルダーの皆様に多大なご迷惑とご心配をおかけしていることをお詫び申し上げます」と述べ、役員ら一同が起立して謝罪する。

10時5分
 被害弁護団の紀藤正樹弁護士(リンク総合法律事務所)が議事の一括審議について、動議を提出。紀藤弁護士が「一括審議は進行をスムーズにするための会社側の都合そのもの」と発言。動議は否決される。

10時10分
 土屋隆司・監査役が監査報告を行う。連結計算書について、「新日本有限責任監査法人から、すべての重要な点において適正に表示しているものと認めるという監査結果の報告を受けている」と述べる。

10時13分
 2018年3月期の決算報告。まず、岡野会長がシェアハウス関連融資等について「お客様および株主様をはじめ多くのステークホルダーに迷惑と心配をおかけしていることを深くお詫びする。事態の重要性を鑑み、第三者委員会を設置した」と発言。
 連結損益について、経常収益は貸出金利息の増加により1,562億7,800万円(前期比105億2500万円増)、経常費用はシェアハウス関連融資などへの貸倒引当金繰入額の増加で1,457億5,200万円(同582億2,200万円増)とナレーションとスライドで説明。

10時37分
 質疑応答が始まる。被害弁護団の河合弁護士が、シェアハウス向け融資で融資申し込み関連資料を独自調査した結果、96%で何らかの偽造が見つかった点を挙げ、「偽造に基づく金銭消費貸借は無効だ」と発言。その上で、「オーナーから破産者や自殺者が出ている。高校生と中学生の子ども、妻を遺して自殺している」と明かし、シェアハウス向け融資の早期の解決を迫る。

審査部門の管掌役員が営業本部長

11時28分
 株主総会の開始から1時間半が経過。5月15日、スルガ銀行の危機管理委員会が「営業が審査部より優位に立ち、営業部門の幹部が融資の実行に難色を示す審査部担当者を恫喝するなど、圧力をかけることも行われ、これに対して審査部門が抗し難いという状況が生じていた」との報告を公表している。この点について株主の一人は、「審査がまったく機能しない状態が続いていたと認識するが、この時の審査部門管掌であった柳沢(昇昭)常務が、今回の議案では営業本部長となるようだ。この点について説明いただきたい」と質問。
 これに対し、白井稔彦・代表取締役専務(コンプライアンス部門担当)が「大変由々しき事態と認識している。営業と審査の牽制機能がしっかりあることで、お客様の資産内容をしっかり把握できる」と述べる。柳沢常務は「それぞれの部門が対立した時に営業部門が優位に立っていたことは否定できない。ただ、判断する時点で絶対に融資をしてはいけない案件は融資をしていない点はご理解いただきたい」と発言。質問と回答がかみ合わない。

米山社長「お客様本位ではなかった」

11時55分
 株主が2019年3月期の見通しについて質問する。米山社長は「今までしたことについて、お客様本位ではなかったとの反省に立って、それを成し遂げることによって業績をあげていくことが一番大事と考えている」と述べる。
 また、「預金者として株主として今後が心配だ」との意見に対し、米山社長が「リテールビジネスを30年やってきた。銀行の目線ではなくお客様目線でやってきたが、昨今のシェアハウス問題ではそれが最高益を連発する中で失われてしまった。これをお客様本位のプロセスに戻ることで復活できると思っている。これから金融庁から厳しい処分が出ると思う。ゼロから当社の経営を立て直していきたい」と回答。

2019年3月期の実質与信費用は190億円

12時43分
 質疑応答の開始から2時間以上が経過。スルガ銀行は6月6日、シェアハウス関連融資の回収可能性や投資用不動産向け融資を精査した結果、貸倒引当金の積み増しが必要になったとして、5月15日に公表済みの2018年3月期の連結決算を訂正。貸倒引当金をさらに203億円積み増している。
 この点について「貸倒引当金は今後どうなるのか」と質問が出る。八木健・取締役(審査部管掌)は、「今期(2019年3月期)の実質与信費用は190億円を見込んでいる。現時点で考えられる最大の貸倒引当金を見込んでいるが、今後の状況によってはこれが必ずとは言い切れない」と述べるにとどめた。なお、2018年3月期の実質与信費用は単体で436億円、連結で485億円。

12時50分
 (株)スマートデイズ(TSR企業コード:294730672)の破綻やSAKT Investment Partners(株)(TSR企業コード:298434628、東京都、以下サクト)の未払いなど、スルガ銀行が多くのオーナーに融資したシェアハウス業者の経営が行き詰まっている。この点について株主から「サクトは2017年4月に(サブリース賃料の)未払いが生じているが、スルガ行内ではいつ認識したのか」と質問。これに対し、白井常務が「シェアハウス業者の一部に経営不振があるのは昨年の5月以降に認識した。その間に社内の調査をつぶさにやってきた」と述べた。
 だが、スマートデイズの手掛けるシェアハウス向け融資は2017年5月以降も実行されている。「つぶさな社内調査」がどこまで行内で情報の共有化が出来ていたのか。あるいはこの時点でも営業部門が押し切ったのか。

怒号飛び交う中の採決

13時12分
 米山社長が「審議は尽くされた」と発言し、取締役・監査役の選任の議案を採決。賛成多数で可決された。その前後に複数の株主から「動議」の声が複数出されたが、怒号と拍手の入り乱れる中でかき消されるように閉会。

被害弁護団が会見

13時36分
 株主総会の会場近くで被害弁護団が記者会見を開く。紀藤弁護士は、「議事進行に不誠実さが表れていた。第三者委員会の調査、金融庁の検査を待っているとの言い方で、今、何をやっているのかまったく言わない」と株主総会を総括した。

会見する被害弁護団(中央が紀藤弁護士)

会見する被害弁護団(中央が紀藤弁護士)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年7月2日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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