子どもの居場所を守りたい 被災の塾、移転にクラウドファンディング

地震で被災した塾の移転のため、寄付を呼び掛けるNPO法人「あっとすくーる」代表の渡剛さん(中央)と職員=2018年6月27日、大阪府箕面市

 ひとり親家庭の子ども向けに学習支援をしている塾「渡(わたり)塾高槻校」が6月18日の大阪府北部地震で被災し、建物の内部が使えなくなった。授業を続けるには新教室への移転が必要。「しんどい気持ちを抱える子の居場所を守り、そばにいたい」。運営するNPO法人「あっとすくーる」は、費用をインターネットで募るクラウドファンディングを始めた。

 地震後初めての授業は6月27日、高槻市の飲食店「はる遊食堂」で開かれた。塾生の中高生と講師の大学生が、英語や数学のテキストを囲む。
 「地震どうだった?」。そう問いかけられて、身ぶり手ぶりで当時の思いを打ち明ける子がいた。勉強の合間には、塾生と大学生が互いの生活や進路を話し合う。授業が終わってからも、しばらく学生と話し込む姿があった。

 高槻校塾長の橋口大知(はしぐち・だいち)さん(25)は「1人で過ごすのが怖いという子もいたが、やっと顔が見られて安心した」と話す。塾生のほとんどはひとり親家庭の子どもだ。

 渡塾は個別指導で、塾生は教室が開いている時間は授業がなくても自由に放課後を過ごせる。ひとり親家庭の授業料は半額で、奨学金制度もある。
 「あっとすくーる」代表の渡剛(わたり・つよし)さん(29)も未婚の母子家庭で育った。中学の頃から、祖母の介護や兄の借金で生活が厳しく、家族がいがみ合う姿も見た。経済的な理由で大学受験を諦めかけ「死にたい」と母に伝えたこともあった。

 「どうして誰も助けてくれないんだろう」。自分のように生きづらい子どもに寄り添おうと、大阪大在学中の2010年に大阪府箕面市で渡塾を始めた。卒業後の15年には高槻校を開校。さまざまな事情を持つ子どもらの「第二の家」を目指した。

地震後、床に散らばった参考書=あっとすくーる提供

 地震当日、職員が高槻校に行くと、参考書は床に散乱し、天井にはひびが入っていた。建物の外壁や柱も損傷し、そのままでは授業ができない状態だった。

 「家にいるのはしんどい。でも地震が怖いから外に出られない。つらい」。休校が続くと、生徒から職員に連絡があった。

 ライフラインが復旧しても、見えないところに困っている人はいる。より早く居場所を確保しようと寄付を呼び掛け、新しい教室を探すことにした。
 寄付金は契約費用などに充てる。当面は、はる遊食堂で授業をするが、その後は決まっていない。「子どもの声に応えたい」。しばらくは塾生に限らず、避難している子や困っている子を無料で受け入れるつもりだ。
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取材を終えて

 代表や塾長は27歳の私と同世代。地震が起きてから、子どもを第一に考え奔走していた。取材中、渡代表は「子どもの声に応えることが僕らの存在意義」とまっすぐに私を見つめ、言った。彼の目や、スタッフと話す塾生の笑顔を見て思った。私は誰かのためになっているのだろうか。自分の存在意義をまっすぐ言えるような取材ができるよう、考え続けたい。(共同通信・大阪社会部=大湊理沙)

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