山北町長選(下)通行規制 集客へ まず安全確保

 山肌が赤や黄、橙(だいだい)色に染まる頃、玄倉バス停(山北町玄倉)周辺の駐車場には週末になると、県内だけでなく県外ナンバーの車が次々と入ってくる。3カ所合わせて150台分ほどの駐車場はいっぱいになり、増便された路線バスからも山歩きの服装をした老若男女が降りてくる。

 多くの人が足を向けるのが、玄倉ダムまでの片道約6・3キロのハイキングコース入り口。お目当ては西丹沢の玄倉川上流にある「ユーシン渓谷」だ。

 紅葉の名所として名が通っていたが、神秘的な輝きを放つ水面の画像が会員制交流サイト(SNS)などを通じて一気に拡散した。2016年ごろから丹沢を代表する観光スポットの一つになっている。

 その輝きは「ユーシンブルー」と称せられ、町は観光振興に結び付けようとユーシンブルーを特許庁に商標登録出願し、17年9月に登録された。だが、渓谷近くで今年1月、斜面が崩落。ハイキングコースの一部に当たる、渓谷を含む林道約1・5キロで立ち入りが規制され、今も通行止めが続いている。

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 「何とか早く通れるようになってほしい」

 そう話すのは、近くにある旅館の男性支配人(39)だ。人気に伴い、群馬県や千葉県など県外から訪ねてくる人も増えていただけに「影響は出ている」と明かす。

 かながわの景勝50選、日本の滝百選に名を連ねる「洒水(しゃすい)の滝」(同町平山)も、一部で立ち入りが制限されている。04年に大雨による落石があり、危険防止のため、その年から滝つぼに近づけない。

 滝は3段からなり、落差は最大で69メートル。「迫力があってすごい。ユーチューブで見てから来たが実際はこんなに高さがあるのか」。厚木市から訪れていた夫婦は声を弾ませるも「滝つぼまで行けたらよかった」と残念そうに言う。

 滝行を目的に訪れる客を迎え入れてきた旅館を営む女性(65)も「滝つぼまで行けなくなってから年々お客さんが減っている」とこぼす。「滝を目当てとした客が減れば、町全体の観光客も減るはず。雨が降れば危ないし、きちんと安全のことをやってほしい」と続ける。

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 町は今年2月、ユーシン渓谷に続く林道を管理する県に対し、観光や林業に影響することから、早期復旧を求める要望書を提出。ただ、県からは動植物への配慮などが必要で、18年度中に工事に着手するも、完了は19年度になる見込みとの回答があったという。

 一方、洒水の滝に関して町商工観光課は「工事に向けて県や地権者と調整中」としているが、規制解除のめどはまだ立っていない。

 安定的な観光地経営のためには、安全確保とインフラ整備は欠かせない。ユーシン渓谷近くの旅館の男性支配人はこう訴える。

 「何でも行政にやってほしいと言っているわけではなく、民間でできることは民間でやる。道や環境整備といった行政にしかできないことは、しっかりやってほしい」 

滝つぼ付近への立ち入りが規制されている「洒水の滝」=22日、山北町平山

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