イラン鉄鋼貿易、再び不透明に 米が経済制裁再開、決済リスク高まる

 イランをめぐる鉄鋼貿易の不透明感が強まっている。米国のトランプ大統領がイランに対する経済制裁の再開を打ち出したことで日本からのイラン向け鉄鋼輸出に暗雲が漂う一方、イランからの鉄鋼輸出の行方も注目されている。

 イランは中東最大の鉄鋼市場で、世界鉄鋼協会によると2017年の鋼材見掛け消費は2千万トン。輸出は前年比32%増の750万トン、輸入は34%減の310万トンだった。

 日本からのイラン向け鉄鋼輸出は年間20万~30万トンあったが、12年に欧米の経済制裁が強まると急減。これが解除されたことで16年以降はブリキなど缶用鋼板や方向性電磁鋼板、レールや厚板、鋼管といった高機能鋼材を中心に取引が再開され、17年は6万トン程度へ盛り返していた。

 しかし米がイラン企業との取引を禁じる姿勢を示したことで、日本の鉄鋼商社や金融機関、海運会社などは慎重に動かざるを得なくなった。前回の制裁時も缶用鋼板は米政府が対象から外されていたため輸出を継続できる可能性はあるが、外貨決済や保険、そして配船の課題はくすぶる。

 一方、国際市場への影響では、イラン鉄鋼メーカーの生産や輸出も無視できない存在になっている。前回の制裁下でイラン国内のみで完結する鉄鋼のサプライチェーンが整い、16年からは輸入関税も引き上げられた。経済制裁の解除や世界的な鋼材市況の上昇で急速に輸出が増え、モバラケ・スチールやフーゼスタン・スチール(KSC)といった主要鉄鋼メーカーを束ねる国営のイラン鉱工業発展改革機構(IMIDRO)の粗鋼生産は11%増の1560万トンに。国内全体の粗鋼生産も18%増の2120万トンと大きく増えている。

 東南アジア鉄鋼協会のインドネシア大会で基調講演したモバラケのソブハニ社長は、同社グループの粗鋼生産が860万トン規模で、輸出が200万トン前後、半分程度を欧州へ輸出していることを説明した。今回の経済制裁で欧州各国は慎重な姿勢を見せているものの、制裁と関係なしにEUは鉄鋼輸入に対しセーフガード(緊急輸入制限措置=SG)調査を行っており、SGが発動すればイラン勢には大きな影響が生じる。

 米はイランの原油禁輸を打ち出しており、結果的にイランは外貨獲得のため鉄鋼の輸出に力を入れる可能性がある。ソブハニ社長も本紙の取材に対し「我々は前回の経済制裁下でも輸出を続けてきたノウハウがある」と話しており、仮に欧州への輸出が難しくなれば中東や東南アジアなどで拡販を図るのが濃厚だ。

© 株式会社鉄鋼新聞社