打者は広島丸、投手はヤクルト小川 セイバー目線で選ぶ6月のセ月間MVP

ヤクルト・小川(左)と広島・丸【写真:荒川祐史】

低調なセ・リーグ勢の中、1チーム気を吐いたヤクルトが交流戦勝率1位に

 2位から6位までの順位が目まぐるしく変化するようになった混戦のセ・リーグ。6月のチーム成績は以下の通りです。

ヤクルト
15勝8敗 OPS.760 本塁打23  防御率 4.26

広島
12勝11敗 OPS.808 本塁打33  防御率 4.72

阪神
10勝12敗 OPS.732 本塁打16  防御率 4.65

巨人
10勝13敗 OPS.684 本塁打21  防御率 3.56

中日
9勝14敗 OPS.663 本塁打12  防御率 5.15

DeNA 
9勝15敗 OPS.677 本塁打 26  防御率 4.42

 全体的に低調な数字が、交流戦でのセ・リーグの苦戦を物語っています。そんな中、ヤクルトが気を吐き交流戦の最高勝率チームに輝きました。序盤に投手陣の踏ん張りで7連勝を飾り、終盤ちょっとバテた感はありましたが、投打の噛み合わせが良く、大きな貯金を作ることに成功しました。なおヤクルトの交流戦のみの防御率は3.38です。

 NPBからはすでに月間MVP候補が発表されています。月間MVPの選出基準は、原則NPB公式記録が用いられます。ただ打点や勝利数といった公式記録はセイバーメトリクスでは、個人の能力を如実に反映する指標と扱わないので、個人の選手がどれだけチームに貢献したかを示す指標による評価は、公式のMVPとは異なることもあるでしょう。

 そこで、セイバーメトリクスの指標による6月の月間MVP選出を試みます。

青木と丸の打点の差は、前を打つ打者の調子で左右された数字

◯6月月間MVP セ・リーグ打者部門
丸佳浩(広島東洋カープ)

OPS 1.231 wOBA .512 出塁率.490 長打率.741 本塁打8(すべてリーグ1位)
RC27 11.50 (リーグ2位)

 NPBの候補選手は10名ですが、その中に丸の名前はありません。6月22日に候補が発表された時点での丸の成績は

 打率.302 本塁打3 打点7 OPS .988

 と突出した数字は残していませんでした。しかしリーグ戦が再開されてからの丸は
 
 打率.429  本塁打5 打点8 OPS 1.661
 
 と追い込みをかけ、本塁打8をはじめ、OPS、wOBAといった指標はリーグ1位となりました。なお、候補の中で最も優秀な成績を収めたのが東京ヤクルトの青木宣親です。

丸佳浩
打率.346 8本 15点 得点圏打率.227

青木宣親
打率.388 4本 22点 得点圏打率.600

 青木も候補発表の時点では、打率.322、打点7だったのですが、こちらもリーグ戦再開後に打率.538と打棒爆発。さらには24日から1番に入った西浦直亨が交流戦後打率.432、OPS1.259と大活躍。そして得点圏打率がなんと6割。そのため打点も稼ぎまくり、月間リーグ1位の22となりました。打率、打点、得点圏打率が評価されやすい本家の月間MVPの最有力候補と言えるでしょう。

 ちなみに丸の得点圏打率は.277。本塁打8本もソロが7本、2ランが1本で、本塁打による打点が9、トータルでも15に留まっています。それもそのはず、広島の1、2番の打撃成績が
 1番 出塁率.359 OPS .708
 2番 出塁率.268 OPS .529
と振るわず、丸の前にランナーを貯めることができなかったことを物語っています。このように打点は本人の調子よりも、前を打つ打者の出塁状況によって大きく変動する指標なのです。

 では、セイバーメトリクスの指標で両者を比較してみます。

丸佳浩
OPS 1.231 出塁率.490 長打率.741 wOBA .512 RC27 11.50

青木宣親
OPS 1.168 出塁率.485 長打率.682 wOBA .500 RC27 13.54

 選手の得点創出能力を測るRC27では青木が上回りましたが、他のセイバーメトリクスの指標ではすべて丸が月間1位となりました。

 なお青木は6月30日の阪神戦で頭部に死球を受け負傷退場となり、容体が心配されました。しかし翌日、試合は欠場となりましたが、登録抹消されずベンチ入りを果たしています。

 今月のように候補発表の後、成績を急激に上げた場合、NPB公式の月間MVPに推挙されることはあるのでしょうか。

投手部門はヤクルト勢の争い、ファン投票では守護神・石山が選出されたが…

◯6月月間MVP セ・リーグ投手部門
小川泰弘(東京ヤクルトスワローズ)
登板4 3勝0敗  
防御率1.08 FIP1.88 QS率100% 被本塁打0 RSAA 6.73(すべてリーグ1位)
奪三振率7.20 WHIP 1.12 被打率0.260

 候補選手は7名。その中でピックアップしたのは、交流戦最高勝率に貢献したこの2投手。

小川泰弘
防1.08 3勝0敗0セーブ 奪三振率7.20 被打率.260

石山泰稚
防2.79 1勝0敗7セーブ 奪三振率10.24 被打率.237

 実は石山は候補発表の時点までは8試合5セーブ、防御率0.00と完璧なリリーフを果たしていました。ここまま防御率0を続ければ月間MVPも見えてくるかと思われましたが、24日の巨人戦、29日の阪神戦とセーブはあげたものの、この2試合で自責点3。月間MVP争いから一歩後退したかと思えます。

 ちなみに、交流戦最高勝率はヤクルトでしたが、交流戦自体は59勝48敗でパ・リーグが勝利したため、交流戦MVPはパ・リーグの最高勝率のオリックスから吉田正尚が選出されました。しかしヤクルト球団は「ファンが選ぶスワローズ交流戦MVP投票」を企画し、その結果、石山がMVPに選出されています。

 ではセイバーメトリクスの視点での評価を見てみましょう。

小川泰弘
防1.08 FIP 1.88 WHIP 1.12 QS率50% K/BB 6.67 RSAA 6.73

内海哲也
防1.88 FIP 2.66 WHIP 0.96 QS率率100% K/BB 4.50 RSAA 4.38

メッセンジャー
防3.67 FIP 2.82 WHIP 1.30 QS率50% K/BB 5.20 RSAA 4.44

 内海とメッセンジャーは候補選手には選ばれていませんが、被本塁打が少なく、FIPが2点台ということで紹介しました。しかし両投手ともQS率が50%と先発投手としての役割は果たせていなかったと言えるでしょう。

 小川は4試合に先発登板してすべてでQSを達成しました。また楽天生命パーク宮城、神宮、札幌ドーム、東京ドームで登板し、被本塁打が0というのも高評価。そしてRSAA(Runs Saved Above Average)という、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標

(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9

 においても、小川の数字はリーグ1位でした。「ファンが選ぶスワローズ交流戦MVP投票」では8位だった小川ですが、こちらで月間MVPに推挙いたします。

(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中
トークイベント「セイバー語リクスナイト」7月19日開催

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