やまゆり園事件被告が手記出版か 県議会、差別拡散懸念

 神奈川県立障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件で、障害者に対する差別発言を繰り返している被告の手記などをまとめた本を出版する動きがあることを巡り、3日の県議会で、差別的思想が拡散されることを懸念する意見が相次いだ。議会側は都内の出版社に自粛を求めるよう県に要請するも、県側は内容が明確に分からない上、憲法の保障する表現の自由を侵害しかねないなどとして慎重な姿勢を崩さなかった。

 県などによると、出版社が、拘置所内で植松聖被告(28)の記した手紙や接見記録などをまとめて出版する動きがある。既に月刊誌に掲載してきた内容に加え、専門家や被害者家族らの意見も盛り込むとされる。

 被告はこれまで障害者の存在を否定するような発言を繰り返しており、「意思疎通が取れない人間を安楽死させるべきだ」などと主張。出版社は被告の発言を報じる意義について「急速に風化が進み、事件そのものが忘れられつつある絶望的な状況に異議を唱えようと取り組んできた」などと説明しているという。

 3日の県議会特別委員会で、こうした動きが取り上げられた。自民党の委員は「共生の理念を広め事件を二度と起こさないためには、障害者への偏見を取り除くことが必要。精神的苦痛が懸念される差別発言が拡散されることの影響は計り知れない」と指摘。静岡県内で出版停止を求める署名活動があったとし、「神奈川県は事件の当事者として出版計画を放置せず、責任ある対応を取るべきだ」と出版社に自粛を申し入れるよう求めた。

 これに対し県は「入所者家族や園職員に不安を与えることがないよう、気持ちに寄り添って丁寧に対応していく」とする一方、「出版、表現の自由は極めて慎重に対応する必要があり、内容も不明な刊行物に行政の立場で事前規制や自粛を要請することは難しい」として理解を求めた。

 同被告の発言はこれまでもメディアに取り上げられており、入所者の家族らは冷静に見守っているという。

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