イシグロさん長崎名誉県民に 英で称号授与 「長崎はいつも私の一部」

 【ロンドン=報道部・古瀬小百合】長崎県と長崎市は3日、昨年12月にノーベル文学賞を受賞した同市出身の英国人作家カズオ・イシグロさん(63)に対する名誉県民、名誉市民称号の授与式をロンドンで開いた。中村法道知事と田上富久市長からそれぞれ証書を受け取ったイシグロさんは「長崎はいつも私の一部であり、名誉称号を受けるのはある意味で自然なことと感じる。これまでいろんな賞をもらったが、今回の名誉称号は特別で心温まる」と述べ、謝意を示した。
 イシグロさんは1954年、長崎市で長崎海洋気象台(現長崎地方気象台)勤務の父・鎮雄さん(故人)と母・静子さんの間に生まれ、5歳の時に父の仕事の関係により一家で渡英した。小説などの作品は英語で執筆している。82年に発表した最初の長編小説「遠い山なみの光」は原爆投下後の長崎が舞台となっている。
 式で、イシグロさんは長崎について「子どものころ過ごした町であり、平和を希求する町でもある」と表現した。今でも「(海外で)急な坂を見ると長崎の坂を思い出す。ケーブルカーに乗れば稲佐山、おもちゃ屋の音を聞くとおじいちゃんに連れて行ってもらった浜屋を思い出す」と語った。
 一方、現在90代の母・静子さんが長崎原爆の被爆者であることに言及。原爆の惨禍は「二度と起こってはならないことだ」とし、「今日の不確実な世界において、長崎は大きな危険がわれわれを脅かしていることに警鐘を鳴らし、平和に導く特別な責務がある」と強調した。
 県と長崎市は今年3月、イシグロさんのノーベル文学賞受賞を受けそれぞれ名誉県民、名誉市民に選定していた。ただイシグロさんは新作執筆に伴い来日が困難なため中村知事と田上市長が渡英し、証書と記念品を直接手渡すことにした。
 式で中村知事は「ノーベル賞受賞は県民にとどまらず日本国民に勇気と希望を与えており、敬意を表する。来日する機会があれば県民と触れ合う機会を設けてほしい」とあいさつした。田上市長も「(名誉称号の授与は)市民全員の思いと受け取ってほしい」と述べ、2年後の被爆75年の節目に、長崎市で開く平和祈念式典に参列してほしいと呼び掛けた。

3日、ロンドンで長崎県の名誉県民称号を授与され証書を手にするカズオ・イシグロさん。左は妻ローナさん(共同)

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