強制合区で骨肉の争い 「南足柄市・足柄上選挙区」自民県連2人推薦 選挙制度に複雑な思いも

 来春の県議選から適用される南足柄(定数1)と足柄上(同1)両選挙区の「強制合区」を巡り、自民党県連は現職2人を公認せず、それぞれ「推薦」候補として支援することを決めた。同じ党に所属する2人が1議席を奪い合う“骨肉の争い”が展開される格好だ。公選法に基づく選挙区見直しを受けた「苦渋の決断」(県連幹部)とはいえ、地元からは複雑な思いが漏れる。 

 新たな「南足柄市・足柄上選挙区」(定数1)で、自民の推薦を受け無所属で出馬予定の2人は、南足柄の瀬戸良雄氏(70)=当選1回=と足柄上の杉本透氏(64)=同3回。それぞれ公認申請していたが、県連は「定数1の選挙区で2人に公認は出せない」との方針で一致、地元の同意を得た上で推薦とすることを2日に公表した。

 「戦いづらさはあるが、やむを得ない。地道に両地域に入って、知名度を上げていくしかない」

 「決まったものは仕方ない。変なしこりは残したくない。いかに自分が汗をかくかだ」

 瀬戸、杉本両氏はそれぞれ「同僚」との戦いに覚悟を決めるが、人口減少地域が浮かび上がらせた選挙制度の限界に対する割り切れない思いは共通する。

 合区は、南足柄の人口が県議1人当たりの人口の半数(4万3458人)を下回ることに伴う措置。「1票の格差」解消が目的だが、総面積が横浜市の約9割に当たる1市5町の課題解決を県議1人で担うことへの懸念が付きまとう。

 「県の権限がわずかな政令市にあれだけ多くの県議が必要なのか」。県西部の県議からは恨み節も聞こえてくる。参院の定数増が波紋を広げている中での「愚直な見直し」(県議)にも、疑念は尽きない。

 それでも、戦うしかない。相手の地盤に食い込んでいかに支援を広げていくか-。両氏は9カ月後のサバイバル戦を見据え、戦略を練り始めている。

 ただ、地元の受け止めはやはり複雑だ。ある首長は「いまとなっては一本化できないだろうが、保守対決は相当難しい選挙になる」。保守系の重鎮も「なじみの薄い敵陣に、今から新たな支援組織をつくるのは難しい」との見方を示した上で、政党も政策も同じ2人が対決することに無理があると指摘。別の重鎮は「政令市と異なり、県西地域こそ住民に近い県議の存在は大きい」と強調し、「自民同士がぶつかる問題より、1人になってしまうことが不幸だ」と述べた。

 一方、野党系では「自民分裂」の戦いを見据えた候補者擁立の動きが早くも見え隠れする。2人と政策が違う対抗馬が出れば、選択肢の拡大とともに「漁夫の利」を得る可能性もある。ある県議は言う。「保守地盤の1人区でもチャレンジする候補が出れば面白い」

(左から)杉本透氏、瀬戸良雄氏

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