避難の足と運行停止のバランスかぎに 都営地下鉄、水害時の対応を聞く

岩本町駅で止水板を用いて行った訓練の様子(写真提供は全て東京都交通局)

最優先は乗客の安全

台風・大雨による洪水が都市部に起こった際に懸念されるのが地下鉄や地下街への浸水。乗客の安全や設備をどう守るのか。都営地下鉄を運営する東京都交通局に聞いた。

都交通局では「乗客の生命が最も大事。これは交通事業者にとっては鉄則」(都交通局総務部安全対策推進課長・新原寛史氏)の大原則のもと、被害想定と対策を行っている。浸水被害の想定は2000年に発生した東海豪雨で記録した総雨量589mm、114mm/時になるという。また2017年に国が荒川の氾濫予想を出しているが、全101駅のうち40駅程度で影響が見込まれている。都交通局では、これらの災害に対する対策計画を策定。発災時には交通局長を本部長とした災害対策本部を設置し、対応にあたる。いち早く情報を集めるために、気象情報会社とも契約。ゲリラ豪雨もすみやかに把握できるように努めている。

乗客の避難については、「地上の安全な場所に避難してもらう」という原則。状況に応じて運転を見合わせ、乗客を誘導。駅から近くの安全な場所への誘導を行うという。また都営地下鉄には新宿線と三田線に一部地上区間がある。強風も運行停止の要因となり、風速25m/秒で運行を停止することがある。

両国駅の出入口にある止水扉

設備などを守るために止水板や水のうを駅に設置。さらにはゼロメートル地帯を中心とした13駅には出入口やコンコース内に防水扉も設置している。乗客の避難誘導を行った後、止水板の設置、防水扉の閉扉、電車の退避措置等をとる。しかし新原氏によると「隧道(ずいどう)と呼ばれるトンネル部分を水がつたうような事態になると、設備を守り切ることは難しいこともある」と説明。荒川の大規模氾濫といった場合の最大被害額の想定は出せておらず、まずは乗客の避難を最優先にし、設備の被害に関しては状況に応じて対応するという姿勢だ。

 

本八幡駅の止水板

駅水没対策でビル管理者や同業他社と連携

さらに地下鉄駅は隣接するビルと直結しているほか、ターミナル駅となると東京メトロなど他の鉄道事業者との協力も浸水対策には必要となる。「ビルの所有者・管理者とはよく話し合っている。ターミナル駅は鉄道会社ごとに管理エリアが決まっており、各社の責任を果たすことのほか、大規模地下街については管轄局である都の都市整備局の主導のもと、地下街の構成事業者とも連携している」と新原氏は語る。

運行再開については、水が引いた、もしくはポンプ排水を行った後に、状況の調査を行った後、判断を行う。

広域避難で重要な役割

水害は地震と違い、気象情報である程度の予測がつくこともあり、被害が予測されるエリアの避難の足としての役割も地下鉄には期待される。特に荒川については氾濫で大きな被害が予想されることもあり、国土交通省が主導する協議体に、地元区や都下水道局、流域の他の交通事業者とともに参加し連携。発災の120時間前からを想定した事前行動計画「荒川下流タイムライン」の策定に関与している。

現時点での拡大試行版である荒川下流タイムラインでは、もし区市をまたぐような広域避難が必要な場合、都営地下鉄など交通事業者は発災の24時間前から駅での広報や情報提供を実施。その後に避難のための住民輸送の依頼が行政から交通事業者に行われる。24~6時間前には運行停止に向けた準備を行い、駅の閉鎖・施錠や止水措置を終わらせ職員を退避させる計画としている。

都では国と「首都圏における大規模水害広域避難検討会」を設置。東京東部を中心とした大規模水害の際に区市町村や都県をまたいだ広域避難について、6月1日に第1回会合を開催。都交通局も防災を担当する都総務局とともに参加。東京メトロやJR東日本など他の交通事業者も参加しており、交通事業者にはタイムラインに基づいた避難計画実行の際に、住民のスムーズな移動に協力しなければならない。今後、都と国で避難先の確保や移動手段の具体化が進められていくが、避難実行と運行停止のタイミングについて、今後はタイムラインを詰めていく必要がある。

都営地下鉄での水没事案は1989年に目黒川が氾濫した際の浅草線・五反田駅までさかのぼるという。この件以降、例年、自然災害防止訓練を行っているとのことであるが、温暖化の影響もあり豪雨が増加する中、今後は事前の備えがより重要となりそうだ。都交通局では3月に都港湾局と都建設局が出した高潮による浸水想定に基づき、今後地元区がハザードマップを作ることから、これをふまえてさらに対策を行う方針。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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