③活性化 来訪者との協働目指す

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本の12資産)の一つ、平戸市の「春日集落」。集落に広がる400枚の棚田はイネの青葉が伸び、目が覚めるような緑色に彩られている。
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2012年に採択した「京都ビジョン」で、世界遺産を生かした「持続可能な開発」を重視する方針を掲げた。現在の環境を守って次世代に引き渡し、地域を永く発展させていくという考え方だ。
 春日集落は1988年に20世帯、103人が住んでいたが、過疎化が進行し、現在は19世帯、65人に減った。このうち13世帯が約15ヘクタールで米作をしている。棚田の景観は潜伏キリシタンが暮らしていた禁教期の生活を想起させる重要な物証だが、このまま人が減り続ければ担い手が不足し、維持していくのが困難になる。
 平戸市は一時、棚田保全のためにオーナー制度の導入を検討。だが、福岡や長崎など都市圏から遠いため、なり手が少ないとみて断念した。そこで、来訪者を「保全のパートナー」ととらえる方針に転換した。
 今年4月、集落にオープンした案内所に売店を設置。集落の棚田で栽培した米や、棚田米を原料にした日本酒などの販売を始めた。市文化交流課は「来訪者は地元産品の購入を通じ、精神的、経済的に地元をサポートしてほしい」と期待する。地元産品が売れ、販路も拡大できれば、地域に新たな収入が生まれ、UターンやIターンも望めるからだ。
 パートナーを増やす有効な手段として、同課が注目するのが会員制交流サイト(SNS)。既に住民の一部がフェイスブックで集落の情報を発信。田植えなどのイベントで住民と触れ合った来訪者が、ブログや写真共有アプリ「インスタグラム」などを通じて発信すれば、新たな来訪者を呼び寄せることにつながる。
 案内所では、集落を知り尽くしたお年寄りの女性たちが来訪者にお茶や漬物を出してもてなし、信仰の歴史を語る取り組みもしている。春日集落のまちづくり団体「安満の里 春日講」の寺田一男会長(68)は「集落の維持には市外の人の手助けが大切になる。住民自身が集落の歴史や魅力を発信できるようにしたい」と意欲をみせる。
 同課は「多数でなくとも、週末に一定数の『春日ファン』が足を運ぶようになれば」と期待を寄せる。住民と来訪者の協働を目指し、小さな集落の挑戦が始まっている。

春日集落の棚田を撮影する観光客ら=2017年10月、平戸市春日町

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