2018年上半期「老人福祉・介護事業」の倒産状況

 2018年上半期(1-6月)の「老人福祉・介護事業」倒産は45件と前年同期の40件を上回り、年上半期での最多記録を更新した。このペースで推移すると、介護保険法が施行された2000年以降で年間最多だった2017年の111件を上回る可能性が高まった。
 2018年度の介護報酬改定は、0.54%のプラス改定になったが、過当競争が続く中で小規模事業者を中心に厳しい経営状況を反映した。
 倒産した介護事業者は、従業員5人未満が全体の約6割(構成比57.7%)、設立5年以内が28.8%を占め、小規模で設立間もない事業者が倒産を押し上げている。
 高齢化社会の成長市場と期待されている「老人福祉・介護事業」だが、介護職員の深刻な人手不足を抱えながら業界内での淘汰が加速している。

  • ※本調査対象の「老人福祉・介護事業」は、有料老人ホーム、通所・短期入所介護事業、訪問介護事業などを含む。

前年同期比12.5%増、年間最多ペースで推移

 2018年上半期「老人福祉・介護事業」の倒産件数は45件(前年同期比12.5%増)で、前年同期(40件)を上回り、年間集計では最多ペースで推移している。
 一方、負債総額は29億5,500万円(前年同期比44.7%減、前年同期53億5,000万円)で、前年同期より約4割減少した。これは負債10億円以上は発生がなかった(前年同期2件)ことに加えて、負債1億円未満が35件(前年同期比9.3%増、前年同期32件)と増加、全体の約8割(構成比77.7%)を占めるなど小規模事業者の倒産が大半だったことによる。

老人福祉・介護事業の倒産 年次推移

競争激化と人手不足が影響

 2018年上半期の「老人福祉・介護事業」倒産の四半期別では、2018年1-3月が18件(前年同期比28.5%増、前年同期14件)、4-6月が27件(同3.8%増、同26件)とそれぞれ増加。件数は上半期の前半と後半の単純比較で1.5倍(18→27件)に増加している。
 倒産の増加要因は、同業他社との競争激化で経営力、資金力が劣る業者の淘汰が加速していることや、介護職員不足の中で離職を防ぐための人件費上昇などが挙げられる。
 特に、介護業界の人手不足は「国内景気が悪い時の採用は順調だが、好況になると人材が他業種へ流出する」など、景気と逆行する傾向が強い。とりわけ小規模事業者は業績低迷に、資金的な制約も抱えており、深刻な状況から抜け出すことが難しくなっている。

業種別最多は、「訪問介護」と「デイサービス」

 業種別では、最多が「訪問介護事業」18件(前年同期14件)と、デイサービスなどの「通所・短期入所介護事業」18件(同18件)。次いで、「有料老人ホーム」が7件(同2件)、サービス付き高齢者住宅などを含む「その他の老人福祉・介護事業」が1件(同4件)だった。

原因別、「販売不振」(業績不振)が5割増

 原因別では、最多が販売不振(業績不振)の26件(前年同期比52.9%増、前年同期17件)で増加ぶりが突出した。次いで、「事業上の失敗」が8件(同27.2%減、同11件)、「他社倒産の余波」と「既往のシワ寄せ」(赤字累積)が各3件と続く。
 2017年の年間集計の原因別では、販売不振(業績不振)の構成比は45.9%だったが、2018年上半期は約6割(構成比57.7%)に達しており、同業者間の競争が一層厳しさを増していることを窺わせた。

設立別、5年以内が約3割

 設立別では、2013年以降の設立5年未満の事業者が13件(構成比28.8%)と約3割を占め、新規事業者が目立った。また、従業員数では、5人未満が26件(前年同期比13.0%増、前年同期23件)で、全体の約6割(構成比57.7%)を占めた。新規参入しても小規模で営業基盤が固まらない事業者が、資金調達力や社内体制の未整備から淘汰に追い込まれている実態が浮かび上がる。

形態別、事業消滅型の破産が9割を占める

 形態別では、事業消滅型の破産が41件(前年同期比7.8%増、前年同期38件)と全体の9割(構成比91.1%)を占めた。一方、再建型の民事再生法は3件(前年同期2件)にとどまり、業績不振に陥った事業者の事業再生が難しいことを示している。

地区別件数、9地区のうち8地区で倒産発生

 地区別では、全国9地区のうち、北陸を除く8地区で倒産が発生した。関東の14件(前年同期13件)が最も多く、次いで中部9件(同4件)、九州8件(同7件)、近畿6件(同7件)、東北3件(同1件)、北海道2件(同1件)、四国2件(同ゼロ)、中国1件(同5件)の順。前年同期比では、北海道、東北、関東、中部、四国、九州の6地区で前年同期を上回った。

 「老人福祉・介護事業」倒産が続発している。2018年度の介護報酬改定で0.54%引き上げられたが、現状は小規模事業者を中心に厳しい経営への打開策とはなっていないようだ。
 「老人福祉・介護事業」は、 他業種と異なり許認可条件に一定の資産額などの「財産基準」がなく、経営が不安定な零細事業者の参入が多い要因との指摘もある。
 政府は、社会保障費の抑制に向け、介護事業者の経営安定化と収益率向上を図るため、合併などで事業規模の拡大を促し、許認可条件に「財産基準」の導入も視野に入れているとされる。 
 今後、経営体制の未整備や経営基盤の脆弱な介護事業者が「ふるい」にかけられることは避けられない見通しで、業界再編と同時に、小規模事業者の淘汰にも目を離せない。

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