石木ダム 公益性認める 事業取り消し請求を棄却 長崎地裁判決

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、反対地権者ら109人が国に事業認定取り消しを求めた訴訟の判決で、長崎地裁(武田瑞佳裁判長)は9日、ダムの公益性を認め、原告側の請求を棄却した。土地の所有権を持たない住民らについては「原告の適格がない」として却下した。原告側は控訴する方針。
 石木ダムは佐世保市の利水と川棚川の治水を目的に計画。裁判は、利水面(佐世保市が立てた水需要予測と保有水源)、治水面(長崎県が策定した治水計画の妥当性など)を論点に争った。原告側は利水、治水、いずれの面からもダム建設の必要性はなく、建設予定地の反対地権者13世帯の土地を強制収用するだけの公共性も欠くと訴えていた。
 判決で、武田裁判長は同市の水需要予測や長崎県の治水計画のいずれも合理性を欠くとは言えないとし、事業は「地元住民の生命の安全に関わり、得られる利益は非常に大きい」と指摘。居住地移転に伴う不利益については、近接地に代替宅地があり「地域のコミュニティー再現は不可能ではない」とした。その上で、土地収用法に基づく強制収用に向けた手続きの一環として、事業認定した国土交通省九州地方整備局(九地整)の判断は適法と結論付けた。
 判決を受け、原告側は長崎市内で会見。反対地権者や原告弁護団など6団体は「居住者らの人権侵害に手を貸す判決は強く非難されるべきだ」とする声明を出した。地権者の1人、岩下和雄さんは「ダムは必要ないと今後も訴えていく」と言葉に力を込めた。
 一方、中村法道・長崎県知事は長崎県庁で報道陣に「ダムの必要性と公益性が司法の場で認められた」と述べた。行政代執行については「任期中に方向性を出したい」とし、地権者との面会については「事業を白紙に戻すのが前提では難しい」との考えを示した。佐世保市の朝長則男市長は「ダムは本市の水不足解消のため不可欠。早期完成に最大限の努力を重ねる」とコメントした。
 事業認定した九地整は「これまでの国の主張を認めていただいたものと評価している」とした。

 ■解説/実力行使の免罪符にならず

 長崎地裁は石木ダムの必要性、公益性を認めた国の判断を是認し、原告の訴えを退けた。長崎県と佐世保市は国の事業認定に続き、司法のお墨付きも得た格好だ。
 だが、ダム建設を計画する長崎県や佐世保市が本来説得すべき相手は官僚や裁判官ではなく、建設予定地に住む反対地権者13世帯、ひいては事業に疑問を感じている県民らであることを忘れてはならない。判決は住民の暮らしや営み、コミュニティーの喪失をほとんど考慮しなかった。13世帯は到底納得できまい。
 未買収地の補償額や明け渡し期限を決める長崎県収用委員会の審理はほぼ終わった。司法判断が下され、裁決の時期も近づいているとの見方もある。そうなれば、行政代執行の決定権はいよいよ中村法道・長崎県知事に移る。
 国の事業採択から40年以上、長崎県は「対話」のポーズは取りながら、実際には強制測量や事業認定申請と強硬姿勢で地権者たちとの溝を深めてきた。このまま実力行使で住民を立ち退かせ、ダムを造るのか。判決はその免罪符にはならない。

 ■判決骨子

 一、事業認定処分の取り消しを求めた地権者の訴えを棄却、土地の所有権を持たない原告の訴えを却下
 一、佐世保市の水需要予測の内容に不合理な点があるとは言えない
 一、基本高水の決定は技術基準などに記載された方法に従った一般的なものであり、不合理な点があるとは言えない。計画規模が合理性を欠くとは言えない
 一、本件事業は水道用水の確保、流水の正常な機能の維持および洪水調整のための必要性がある。起業地が本件事業の用に供されることによって得られる公益の利益は、これによって失われる利益に優越している
 一、利水、治水の代替案との比較について、ダムが経済性、社会性の両面で最も優れているとした県の判断が裁量を逸脱したものと言うことはできない

 ■ズーム/石木ダム建設事業

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町岩屋郷の石木川一帯に計画。総貯水容量548万立方メートル。総事業費285億円。1972年に県が予備調査に着手し、75年に国が事業採択。2013年に国が土地収用法に基づく事業認定を告示した。長崎県と佐世保市は2016年5月までに、反対地権者13世帯の宅地を含む未買収地約12万6000平方メートルの明け渡し裁決を長崎県収用委員会に申請。うち約5500平方メートルが裁決された。反対地権者らは事業認定取り消しを求め、2015年11月に提訴した。

判決に対し「不当判決」などと書かれた垂れ幕を掲げる原告ら=9日午後3時8分、長崎地裁前

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