「長年の懸案」の行方

 諫早湾干拓。整備新幹線。石木ダム。この三つの大型公共事業は、筆者が入社した30年前には既に本県の「長年の懸案」だった。是非について激しい論争が行われていた▲諫早湾干拓は1997年に潮受け堤防を閉め切った。その後有明海のノリ不漁をきっかけに、開門を巡る訴訟が延々と続く。入植した農業者と漁業者の溝は深刻で、地域を分断に追い込んだ事業の罪深さを思う▲九州新幹線長崎ルートは、2012年に全線着工したものの、22年の暫定開業後の先がどうなるのか、ミニ新幹線や全線フル規格などの案が浮上し、いまだはっきり見通せない。多額の財政負担の話を聞くと実現性はあるのかと感じる▲その中で唯一未着工なのが、佐世保市への利水と川棚川の治水を目的にした石木ダムだ。これに対し、地権者13世帯は粘り強く反対運動を続けてきた▲地権者が国に事業認定取り消しを求めた請求は、長崎地裁で棄却された。生まれ育ったふるさとを奪われたくないという地権者の願いは届かなかった▲大型公共事業は、一度着工すると後戻りするのが難しい。賛否両論のある事業を強行すれば、将来の地域社会に重い負担を残すかもしれない。今はただ、県に対し、実力行使という最終手段を取らず、地域にとって最善の道を見出してほしいと願うだけだ。(泉)

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