④廃村の保存 地元だけでは守れない

 海からせり上がる急斜面に荒涼とした廃村の風景が広がる。潜伏キリシタンの厳しい生活を物語る物証だ。住民が去って50年。建物は跡形もなく、あちこちで石垣が崩れている。
 「今は全く手を付けていない。保存するといっても、これからどうするのか…」
 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一つ、北松小値賀町の「野崎島の集落跡」。島南端の舟森集落跡で、地元ガイドの前田博嗣(ひろつぐ)さん(56)がため息をついた。
 小値賀島の東に浮かぶ野崎島は、かつて野崎、野首、舟森と三つの集落があったが、2001年に無人島になった。現在は廃校を改装した宿泊施設「野崎島自然学塾村」の管理人だけが籍を置く。
 人がいなくなった廃村でも、「人類の宝」として後世に引き継がねばならない。島中央部の野首集落跡には旧野首教会が残る。教会は1987年から町が管理。おぢかアイランドツーリズム協会の職員が毎日、清掃しているほか、教会付近の町道周辺は町が定期的に草刈りをしている。
 問題は野首集落跡から約1時間半も山道を歩かなければならない舟森集落跡だ。山道は車が通れず、重機の搬入も困難。崩れた石垣の修復はもちろん、草刈りもしておらず、「あるがままの状態」(小値賀町教委)になっている。
 深刻なのはイノシシの獣害。集落跡の石垣を掘り起こして破壊している。町は防止策としてポリエチレン製の網を石垣にかぶせているが、町教委の担当者は「被害は計り知れない」と頭を悩ます。
 県と町は今後、世界遺産価値に直結する集落跡の墓地や、潜伏キリシタン組織の指導者の屋敷跡などを確実に保存していく方針だ。ただ、石垣を含め集落全体の景観を維持、管理していくとなれば、膨大な費用がかかる。
 県世界遺産登録推進課は野首、舟森両集落跡について「重要な要素以外はどこまで保存するのか未定。今後方針を定める」とする。野崎島は国の重要文化的景観に選定されており、整備費の5割を国が補助する。県は今後、補助のかさ上げを国に要望したい意向だ。
 野崎島はほぼ無人島だけに、保全作業の担い手確保も難しい。町教委の担当者は「来島者にイベント的な形で保全作業に参加してもらえないか」と期待する。地元だけでは遺産を守れない現実がある。

石垣が崩れ、荒涼とした風景が広がる舟森集落跡=小値賀町野崎郷

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