江戸の面影 今に 鵜殿家住宅旧主家 島原 佐賀 長崎「登録文化財」巡り

 江戸時代の町家が点在する島原城下の森岳商店街(長崎県島原市)。鵜殿家住宅旧主屋はその一角にある。かつて島原街道だった島原市上の町通りに面した2階建てしっくい塗りの建物で、建築年代が分かっている中では、この地区最古の町屋。現在は所有する鵜殿(うどの)寿子(としこ)さん(80)から元長崎総合科学大建築学科教授の鮫島和夫さん(71)が借り受け、交流スペースなどとして活用している。主屋、土蔵とともに2008年10月に国登録有形文化財に指定された。
 旧主屋が建てられたのは1842(天保13)年。土間・居室の屋根裏に「天保十三年壬寅三月三日 棟梁利兵衛」と記された棟札が掲げられているという。

旧主屋2階のひときわ目をひく巨大な松の木の梁(はり)。鮫島さんによると、建築水準の高さ、当時の中村家の豊かさを物語るという

 島原城資料館専門員で、島原市文化財保護委員会会長の松尾卓次さん(82)によると、旧主屋は、薬種問屋やハゼの実を搾った木ロウで財を成した中村家が建築。木ロウは、ろうそくの材料や髪の付け油として需要が多かった。1790(寛政2)年に杉谷村(現在の同市千本木地区)で、ろうそくの成分を多く含んだ新品種のハゼが見つかり、江戸時代後期には島原の木ロウは全国屈指の特産品になった。
 「4代目中村利兵衛(りひょうえ)(1826~1904年)は、木ロウによる財政増加策17項目を島原藩に提案。藩に年間5千~7千両をもたらし、島原大変後の地域経済に大きく貢献した」と松尾さん。その後、中村邸は鵜殿寿子さんの夫、故敏和さんの祖先が購入したが、時期などは分かっていない。

江戸時代の町屋のたたずまいを今に伝える鵜殿家住宅旧主屋。奥が主屋=島原市上の町

 旧主屋は、書店に貸していたが、閉店後、空き家となり、取り壊しも検討された。島原市のまちづくりなどに関わっていた鮫島さんが、これを聞き付け13年前に借り受けた。現在、1階は住民との交流や観光客へ島原の情報発信などを行う町の駅「まちの寄り処 森岳」などに、2階は多目的スペースとして活用。島原市の建築デザイナー、長浜七郎さん(78)が管理、運営を担っている。
 鮫島さんは「建物の由緒や建築水準の高さから保全する価値があると直感し、責任も感じた。今後も若い人を巻き込み、保存活用を図りたい」と話す。
 旧主屋は新たな息吹を吹き込まれつつ、当時の面影を今に伝えている。

◎ちょっと寄り道/肥前島原松平文庫/松平家寄贈の古典籍類収蔵

 鵜殿家住宅旧主屋・主屋・土蔵から島原城へ向かう途中の島原図書館2階にあり、島原市教育委員会が管理している。
 旧島原藩主松平家が代々収集、所蔵していた和漢の古典籍や郷土ゆかりの古文書など約1万8千点を保管。このうち、古典籍類約1万点は1964年に松平家から同市に寄贈され、2013年に県有形文化財に指定された。
 藩主の蔵書としては国内屈指の所蔵数で、全国の国文学者、歴史学者から注目を集めている。複製本やマイクロフィルム化した古典籍類は閲覧でき、図書館内の「松平文庫展示室」では年に数回企画展も行っている。
 閲覧は同文庫(電0957・64・4117)に予約が必要。開館は午前10時~午後5時。日、月曜、祝日、月末、年末年始は休み。

 ■アクセス

 島原鉄道島原駅から徒歩3分。同駅前の「七万石坂」の2番目の筋(電器店前)を左折し、すぐ。車で訪れる際には同駅構内の駐車場(50台収容)を利用すると便利。「まちの寄り処 森岳」は午前9時~午後5時までオープン。不定休。長浜さん(電090・3608・2955)。

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