記念艦「三笠」軍艦旗、73年ぶり掲揚 亡夫の遺志で返還

 1926(大正15)年から神奈川県横須賀市内で公開されている記念艦「三笠」のものとみられる軍艦旗が12日、同艦を管理する保存会に返還された。ことし2月に90歳で亡くなった石本光男さん=兵庫県明石市=が長年、自宅で保管。亡き夫の遺志を受け継ぎ、妻の美恵子さん(85)が同艦を訪れ、保存会の荒川堯一理事長に直接、託した。73年ぶりに高く掲げられた軍艦旗を目にし、美恵子さんは「主人との約束を守れてうれしい」と涙ぐんだ。

 三笠は日露戦争の日本海海戦で旗艦として活躍。26年から横須賀市稲岡町で、記念艦として公開されている。

 今回返還された軍艦旗は縦2・5メートル、横3・9メートル。左隅に「財団法人三笠保存會」と刻印されており、保存会は「太平洋戦争末期ごろに、記念艦になった三笠に掲げられていたものではないか」とみる。

 保存会によると、45年8月15日以降、進駐してきた米軍人らが戦利品として盗むなどしたため、三笠艦内で保管されていた日露戦争時の艦艇の旗などが散逸したという。

 美恵子さんによると、軍装品を集めていた石本さんは92年、自分のコレクションと交換する形で、米国人の収集家から軍艦旗を入手した。

 海軍予科練出身の石本さんは45年10月、霞ケ浦(茨城県)から特攻隊員として出撃する予定だった。戦後は、生き延びた自らを責めるように「自分は死に損ない」「戦友に申し訳ない」と常々、語っていたという。「軍装品の収集は、命を落とした戦友らへの鎮魂の気持ちからでは」。美恵子さんは亡き夫の心情をおもんばかる。

 軍艦旗を手渡された荒川理事長は「あるべき所に返ってきた。大切に保管したい」と話した。

© 株式会社神奈川新聞社