<上>世界遺産登録 「もう一度」再演後押し

 6月30日夕、長崎市立大浦小体育館(上田町)。
 「世界遺産登録が決まりました!」
 市民ミュージカル「赤い花の記憶 天主堂物語」実行委の江口満事務局長(69)が「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に同日登録されたことを報告すると、ちょうどラストシーンの稽古を終えてひと息ついていた出演者約50人は笑顔を見せ、「やった」「よかった」と手をたたいて喜んだ。
 ミュージカルは、大村市文化・スポーツ振興財団が世界遺産登録を後押ししようと2012年に企画した。潜伏キリシタン関連遺産の構成資産の一つ「大浦天主堂」(長崎市)の建設を巡り、フランス人神父プチジャンと熊本県天草市出身の大工棟梁(とうりょう)・小山秀之進の対立と交流、キリスト教の弾圧から復活までを史実に基づいて描いている。音楽は大村市を拠点に活動するプロの室内オーケストラ「長崎OMURA室内合奏団」の生演奏というのも売りだ。
 14年夏に大村市で初演し、その後は構成資産がある南島原(1回)、熊本県天草(1回)、長崎(4回)の3市で上演してきた。今回で通算10回目となるが「最後になる」(実行委)。これまでは紆余(うよ)曲折の道のりをたどった。
 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界文化遺産登録は当初、16年の見込みで、公演もその年が最後となる予定だった。だが同年2月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関の指摘で、国が登録への推薦を取り下げた。実行委は、約1350万円かかる運営費の資金集めに苦労してきたこともあり、登録を再度支援する計画をつくるまでには至らなかった。
 それでも、出演経験のある小学生13人は再演を熱望。「日本や世界の人に世界遺産を知ってほしい」「もう一度出たい」-。16年秋、それぞれの思いをつづった感想文を実行委に提出。国が名称を「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に変え、17年に再推薦した。
 「世界遺産に登録される今年の夏、出演者と一緒に祝いたい」。昨年は見送られたが、子どもたちの思いに押され、1年の準備期間を経て、実行委は今年の再演を決めた。運営費の確保のため、国の助成金のほか、協賛を募って奔走し企業110社から支援を得た。出演者たちがオーディションを経て再び集い、3月から稽古を始めた。
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 7月21日に長崎市茂里町の長崎ブリックホールで開かれる「赤い花の記憶-」。約1週間後に迫った本番に向け、稽古に汗を流す出演者の思いなどを、記者も稽古に加わりながら伝える。

ミュージカル「赤い花の記憶 天主堂物語」に出演する市民ら=6月24日、長崎市

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