子ども虐待、国連代表の処方箋とは

 

インタビューに応じる子ども暴力に関する国連事務総長特別代表のマルタ・サントス・パイスさん=6月11日、東京都港区のスウェーデン大使館

 5歳女児が死亡し、両親が逮捕・起訴された東京・目黒の事件のように、保護者の虐待で子どもが命を落とすケースが後を絶たない。最後の砦となる児童相談所はパンク寸前だ。社会としてどう幼い命を守っていけばいいのか、このほど来日した子どもへの暴力に関する国連事務総長特別代表・マルタ・サントス・パイス氏に聞いた。 (共同通信=宮川さおり)

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 「世界では5分に1人の子どもが暴力の犠牲で亡くなっている。衝撃的な数字だが、命こそ奪われないものの、身体的、精神的に深刻なダメージを受けている子が背後に何倍もいることを忘れてはならない。暴力は、困難を乗り越える力、物事に向き合う力を子どもから奪う。自身や他者に対する攻撃的な言動を引き出すリスクがあると言われており、その影響は大きい」

 ―虐待した保護者の多くが「しつけのつもりだった」と言い訳している。家庭でも教育現場でも体罰が根強く残る。

 「体罰は暴力で、虐待なんだという明確なメッセージを社会に発信する必要がある。有効な対策の一つは子どもに対するあらゆる形態の暴力を禁止する包括的な法律だ。1979年に体罰も含めて禁止する世界初の法律を制定したスウェーデンでは、制定後体罰容認派が減り、実際の体罰も減少した。その後、多くの国が後に続いた。もちろん法律だけでは不十分だ」

 ―次の一手は。

 「暴力を排除して子どもをどう育てていけばいいのか、医療、教育、法執行の各機関がどう暴力に対処し、どう当事者を支えていくのか、具体的な手引きを示す必要がある。『支援や救済が必要』と理解していても、個人レベルでどう対処したらいいのか分からず、見過ごされるケースは多い」

 「さらに、社会全体の動きにつなげていく必要がある。どんな名目であっても子どもへの暴力は認められないということを多くに理解してもらうのに、メディアの存在は欠かせない。スウェーデンでは、法律制定後、政府がキャンペーンを開始。家庭内で意識向上と議論を促すため、牛乳パックにこの問題に関する情報を印刷した。多くの国民が毎朝目にするというわけだ。行政だけで何とかしようとするのではなく、企業に協力を求めることも、社会の意識を変えるのに有効な手だてとなる」

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 MARTA・SANTOS・PAIS。ポルトガル出身。弁護士、国連児童の権利委員会メンバーなどを経て現職。

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