VW 新型ポロGTI試乗|実用性と速さを兼ね備えたオトナホットハッチ

VW 新型ポロGTI

新型ポロGTIがジャジャ馬でもないのに楽しい理由を探る

昔の自動車雑誌には「エンジンよりもシャシーのほうが速い」といった表現が見られた。かつてのドイツ車に対してよく用いられ、エンジンが発するパワーに対して、それを受け止めるシャシー(ボディや足まわり含む車体全体)に余裕がある状態を指す。

VW 新型ポロGTI

両者のバランスが取れているのが理想だが、そのバランスがやや崩れていると(あえて崩していると)印象的なクルマになることもある。例えばパワーがシャシーを上回って、じゃじゃ馬というか御するのが難しく、刺激的なクルマを我々は「ホットハッチ」と呼んで喜ぶ。

フォルクスワーゲンの新型ポロGTIはその逆。エンジンよりもシャシーのほうが速い。ボディやサスペンションまわりの剛性が高く、少々飛ばした程度では破綻(制御が難しい状態)の兆候を見せない。ホットハッチの逆ということは、走らせて楽しくないのか……。

クルマはそう単純ではないということを今回、新型ポロGTIに教えられた。

新世代プラットフォーム”MQB”で劇的に進化

VW 新型ポロGTI
VW 新型ポロGTI

新型ポロGTIのベースとなったノーマルのポロは、フォルクスワーゲンの新世代プラットフォームであるMQBによって開発された。トヨタのTNGA、スバルのSGP、ボルボのSPAやCMAなど、ここのところ多くの自動車メーカーがモジュール化による開発の効率化を目的に新しいプラットフォームを開発し、それらは総じて出来がよい。

過去のモデルよりも格段に高剛性となり、軽量化が進み、乗り心地が改善している。フォルクスワーゲンもMQBより前か後かでクルマが相当違う。

どこから踏んでも力強い加速

VW 新型ポロGTI

従来のポロGTIは前期型が1.4リッター直4ツインチャージャー(最高出力179ps)、後期型が1.8リッター直4ターボ(同192ps)だったが、新型ポロGTIでは2リッター直4ターボエンジンへと切り替わった。最高出力はまた上がって200psに。その発生回転数は4400-6000rpmと低く幅広い。最大トルクは320Nm。発生する回転数が1500-4350rpmと、ほぼ全域を最大トルクで走行しているようなもの。このエンジンにデュアルクラッチの6速DSG(湿式)が組み合わせられる。実際に運転すると、エンジンが常に分厚いトルクを発し続け、トランスミッションがそれを途切れなく路面に伝えるのが印象的だ。

アクセルペダルを踏めば、何回転であっても何速であってもグイッと力強くクルマが加速する。新型ポロGTIは非常に現代的なパワートレーンと言える。

高剛性ボディと専用チューニングの組み合わせ

冒頭にも述べたとおり、力強いパワートレーンを搭載してもなお、ポロGTIのシャシーには余裕が感じられた。高剛性のMQBボディに、スプリング、ダンパー、アンチロールバーに専用チューニングが施されたスポーツサスが組み合わせられる。

VW 新型ポロGTI

山道をハイペースで駆け巡っても予想外の挙動に不安になるような場面は一度もなかった。またミニサーキットでタイヤのグリップ力の限界付近をいったりきたりするような周回を繰り返しても、クルマの動きがステアリングホイールやシートを通じてドライバーに明確に伝わってくるので、不安なくスポーツドライビングを楽しむことができた。

ダンパーの減衰力、ステアリングのアシスト量、エンジンおよびトランスミッションの特性をエコ、ノーマル、スポーツ、インディビジュアルの4モードから選べるドライビングプロファイル機能が標準装備されるが、同種の機能のなかでは、変化の度合いは控えめ。購入直後はいろいろ試すものの、半年もすればエコかノーマルに入れっぱなしになるのではないだろうか。

やりすぎていないのがGTIの魅力

VW 新型ポロGTI

ポロGTIのスタイリングは、専用デザインのフロントバンパーやハニカムのフロントグリルを水平に走る赤いストライプ、ところどころブラックアウトされたリアデザインなど、ところどころノーマルのポロと差別化されているものの、これ見よがしにスポーティーモデルだということを強調してはいない。

これを物足りないととらえるか、アンダーステートメントなのがいいととらえるかは人それぞれだろうが、わかる人のみにわかる程度の違いにとどめていることが、ポロに限らずVWのGTIシリーズの魅力といえる。見た目のみならず、実用性もノーマルのポロに比べ、まったく遜色がない。

要するにパワーも見た目もやりすぎていないのがGTIシリーズ(ゴルフ・ポロそしてup!)の魅力だ。ひと言でいえば良識があるのだ。

VW up! GTI
VW GTIシリーズ
VW ゴルフGTI

ホットハッチは走らせて楽しい。長いカーライフのなかで実用性よりも刺激を優先させたくなる時期もあるだろう。

ただし全員とは言わないが、スポーティーなドライビングを好む人であっても、早かれ遅かれフォルクスワーゲンのGTIあたりに落ち着くことが多い。GTIがいつの時代も用意されていることがそれを物語っている。

[Text:塩見 智 Photo:茂呂 幸正]

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