難病の子が語る「幸せ」 仏の記録映画に共感の輪 横浜で21日から上映

【時代の正体取材班=成田 洋樹】難病の子どもたちがいまを懸命に生きる姿を追ったフランスのドキュメンタリー映画「子どもが教えてくれたこと」が21日から、横浜市中区の映画館「シネマ・ジャック&ベティ」で上映される。制作したフランス人女性監督は難病で2人の女児を亡くした経験があり、同じ難病の男児と横浜市都筑区で暮らす家族は共感のまなざしを向けながら先行上映を鑑賞した。

 「過去や未来ではなく、目の前の人生を愛することが大事」。6月下旬、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン監督が都内で開かれたイベントで語ったのは、身体機能が低下していく進行性の難病「異染性白質ジストロフィー」で命を落とした2人のまな娘をはじめ難病の子から学んだ人生観だった。横浜でのフランス映画祭に合わせて来日していた。

 80分の映画は、5~9歳の5人の難病の子の学校や家庭での日常や闘病の様子を追う。「悩み事は脇に置いておくか、付き合っていくしかない。愛してくれる人たちがいれば幸せ」「病気でも自分次第で幸せになれる」…。病状について語る子どもたちは、自らの境遇を嘆いたり将来を悲観したりしない。いまを精いっぱい生きようと時に不安に押しつぶされそうになりながらも前を向く姿がスクリーンに映し出される。

 横浜市港北区の市立北綱島特別支援学校小学部4年の吉崎一浩君(9)も監督の亡くなった娘と同じ難病。最重度の重複障害があって意思疎通は難しい。母の百合子さん(46)は「一浩にとっては学校に毎日通って友達や先生に囲まれながら楽しい時間を過ごし、一日一日を生きることが何よりも大事」と話す。短命ともいわれる難病だが、いまは「小学校卒業」が目標だ。

 父の安浩さん(58)は5年ほど前に手にした監督の著書「濡(ぬ)れた砂の上の小さな足跡」(講談社)に励まされたという。娘が難病と診断されてからの家族の苦悩や共に生きる喜びがつづられ、周囲に助けを求めると肩肘張らずに手を差し伸べられるフランス流に引かれた。「日本でそんな文化が果たして根づいているだろうか。難病の子がいる家族は不幸だと思われていないか。不幸ではないと、街に出て身をもって伝えていこうと意を強くさせてくれた本だった」

 安浩さんは5月下旬の試写会で映画を鑑賞した。「一浩と遠くに出かけたりすることは難しいが、家族一緒に過ごすことができるだけで幸せ。映画でもそんな家族の日常の一端も描かれている」と話している。

 上映は午前11時5分から。28日以降の上映時間は未定。問い合わせは同館電話045(243)9800。

フランスで23万人の観客を集めた記録映画「子どもが教えてくれたこと」の一場面((c)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels)

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