「平穏な人生、壊された」 地裁で結審、来年2月判決 神奈川原発避難訴訟

 東京電力福島第1原発事故の影響で福島県から神奈川県に避難してきた60世帯175人が、国と東京電力に慰謝料など総額53億9千万円余りの損害賠償を求めた訴訟は19日、横浜地裁(中平健裁判長)で結審した。判決は来年2月20日に言い渡される。 

 訴訟は、原発事故に対する国と東電の責任の有無が主要な争点。事故によって原告が被ったと認められる損害の範囲と、賠償額についても争われた。

 19日に開かれた第29回口頭弁論では、原告側が国と東電の責任を改めて追及した。弁護団は「東電は津波の到来を予見できたのに必要な対策を講じず、国も規制権限を適切に行使せずに具体的な対策工事を何一つ行わせることができなかった」などと非難した。

 また国の指針に基づき東電がこれまで支払ってきた賠償額は「被害の実態と乖離(かいり)し極めて不十分」と指摘。低線量被ばくの危険性にも触れつつ、今なお避難生活を続けざるを得ない原告らに適正な賠償が行われるよう求めた。

 南相馬市から避難している村田弘原告団長(75)も法廷で意見陳述に臨み、「事故がなければ平穏な人生を送っていたはず。その基盤の全てを壊された」と訴えた。

 東電と国は法廷での意見陳述を行わなかった。これまでの訴訟で東電は、津波の予見可能性を否定し、損害賠償に関しても適正な金額を支払ってきたと反論。国は、そもそも東電に対する規制権限を有していないなどと主張している。

 原発事故を巡る同種の集団訴訟は全国で約30件あり、これまでにあった7件の一審判決全てが東電に賠償を命じた。このうち5件の訴訟で国も被告になっており、4件が国の責任を認定。両者の責任を認める流れが定着しつつあるが、請求額に比べて賠償額が低く抑えられる傾向にあり、課題になっている。

 横浜地裁の訴訟で原告は避難に対する慰謝料(事故以降1人当たり月額35万円)や故郷を奪われた慰謝料(1人当たり最大2千万円)を請求。自宅や家財などの損失補てんも求めている。

開廷前に横断幕を掲げて行進する原告団と弁護団=19日午前9時20分ごろ、横浜地裁前

© 株式会社神奈川新聞社