金属行人(7月20日付)

 平民宰相・田中角栄は「総理・総裁運命論」をよく語っていたという。総理の椅子は一つしかない。政治家としてどれだけ実力や人望があっても、最後は巡り合わせや天寿といった運に左右された事例は多々ある▼その点、企業を率いる社長も同じだろう。ある取材先の話。業績はすこぶる堅調で、当時の社長はあと2~3年はやるだろうと思われていた。そんな折、社内も驚く社長交代。後任の社長もトップに相応しい経歴ながら、前社長とは年の差があまりなかった。聞いてみると前社長に病気が見つかり、大事をとって交代に至ったそうだ▼一方、鉄鋼業界なら縁深い方もいるであろう別の企業の話。社長交代を発表したものの、株主総会を前に急きょ後任の社長候補を差し替えた。つてがある父親に聞いたところ、社長候補に指名された方が責任の重さに耐えかねて、悩んだ末に辞退したという▼思いがけず社長となり、指名されても社長にならない。そして社長として腕を振るいたいという人には必ずしもお鉢が回らないものである。この6月から新たに社長となった方々は、挨拶回りや自社の拠点巡りを本格化させていることだろう。運命を噛みしめながら後に続く従業員を導いていただきたい。

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