「人生2度目の沖縄、しかも25年ぶり」という女ともだちとの沖縄旅行。
台風の影響が強まる中、まさかのゴミ袋を身にまとい、土産物探しに市場方面へのらのら。

お土産は市場で買うに限る。持ち運びが面倒なら、郵送してしまえばいい。
どれだけ買っても空港売店などでは定価だが、市場では交渉次第でオマケしてくれる。
女ともだちは、姉に頼まれた「コンビーフ・ハッシュ」を探していた。
コンビーフ・ハッシュをお土産に頼むとは、なかなかの沖縄ツウ。
コンビーフと賽(さい)の目に切ったじゃがいもを混ぜた万能レトルト食品とでもいおうか。炒め物からオムレツ、ホットサンドまで、レシピも多様。
沖縄っこも、日常的に使っている。
私はいつもミッドランドという名のポーク缶(ポークランチョンミートと呼ばれる豚肉加工缶詰)を買って帰っていたが、最近はポーク缶も近所のスーパーとかで見かけるようになった。
沖縄っこから教えてもらったそのポーク缶のトリビア。
なんでもデンマーク大使がわざわざ沖縄へ挨拶に来るらしい。
「へ、なんで?」
実は沖縄で売っているポーク缶のほとんどがデンマーク産で、沖縄への輸出量がナンバーワンというのがその理由。日頃の感謝の気持ちを込めてポークフェアも開催されているらしい。デンマークと沖縄が人知れずポーク愛で結ばれていたとは!

そんな土産話をするためにある“みやげもの”。嫌でも聞かなきゃ貰えない。
貰ってもどうしたものかという“いやげもの”(嫌がられるみやげもの)もあるし、土産物選びはちょいと楽しい時間。
昔は、沖縄土産といえば、伝統菓子の「ちんすこう」だった。
でも、口の中の水分を全部持っていかれるから年寄りには向かないし、ボロボロ崩れやすいし、どうしたものかと、沖縄土産にいただく度に首を傾げていた。
最近では、雪塩味、チョコ味、レモン味などの人気商品もあるようだから、もはや“いやげもの”ではなくなったのだろう。
思えば、沖縄土産はこの20年で大きく変わった。
私がオススメする沖縄土産がこちら。
▽浦添ブエノチキン
山原(やんばる)産の若鶏1羽丸ごとに、特製ニンニクをぎっしり詰めて2時間じっくりロースト。これが一度食べたらもう病みつきの旨さ。
「当初はさっぱり売れなかったが、味に絶対の自信があったからこそ、ここまで来られた」と語る店主。今では、ブエノチキンとコラボしたポテトチップスまで、空港のコンビニで売られるほどの人気ぶりだ。
だが、その難点はあまりに強烈なニンニク臭。
お土産にするときは、ジップロックか頼んで真空パウチにしてもらおう。さもないと、機内で“ブエノテロ”が勃発、大騒ぎになること必至だ。
通販もあるからお取り寄せも可。

▽ 琉球紅茶
沖縄でお茶が栽培できるの?
「その答えは琉球紅茶にあり」という深い味わいの美味しい紅茶。
沖縄の高級リゾートホテルのウェルカムティーにも出されるほど。
オススメはチャイ。スパイシーでエキゾチックな南洋の味わい。
▽ 沖縄の「謎パン」
なかよしパン、ゼブラパン、ブルースなどなど、そのカロリーを聞いて卒倒する高カロリー菓子パン類。どんな味なのか仲間と食べっこするのは、“いやげもの”に近い楽しさがある。

▽玉木製菓の「亀の甲せんべい」
歌舞伎揚げみたいだが、米菓子ではなく小麦菓子というところが沖縄らしい。かさばるけれど、人にあげると案外喜ばれる。小ぶりの「小亀」もある。

▽沖縄の塩」
私のイチオシは「屋我地(やがち)の塩」。
昔ながらの釜揚げ製法で作られる、少しピンクがかった天然海塩。
塩むすびによし、料理によし、風呂に入れてよし。
「沖縄土産はあの塩に限るね」と、料理好きで海外ロケの多い大御所スタイリストさんからもお墨付きをいただいた。
子宮頸がんの療養で訪れた屋我地の海で取れる塩なので愛用している。
▽ 泡盛・瑞泉 御酒(うさき)
地上戦による壊滅前の沖縄で、東大の坂口博士が採取していた黒麹。
東京空襲もくぐり抜けたその黒麹を使い、沖縄の杜氏の熱い思いで復活した幻の泡盛が「御酒」。
これは泡盛好きの人への土産に是非オススメ。
▽謝花きっぱんと冬瓜漬け
琉球王朝時代から伝わるお菓子、きっぱん。
大変手間がかかるため、その製造と販売を行っているのは「謝花(じゃはな)きっぱん」1社のみ。その味の虜になったのは、作家・向田邦子さん。
エッセイ『女の人差し指』(文春文庫)には、幼い頃からきっぱんを愛し、その味を探し求めて那覇を彷徨う向田さん自身の姿が綴られている。
私はどちらかというと、「冬瓜(とうがん)漬け」のファン。
きっぱんは、ほろ苦く甘い高貴な大人の味がする。
人を魅了する“みやげもの”はなんだか面白い。
旅で出会った思い出深いもの、そこで作られたもの、さらにはそこでしか手に入らないものが理想だけど、わざわざそこに出向いてまで手に入れたくなる貴重なみやげものもある。
そこで、最後にオススメするのが「ぎのざジャム工房」のシークワーサー・マーマレードだ。
これは、沖縄っこからお土産にいただいたのがきっかけで知った。
シークワーサーはどちらかといえば苦手なのでどうかな?と思いつつ、トーストに塗って食べたところ、あまりの美味しさに猫みたいに舌舐めずりをし、余韻をじっくり楽しんだほど。
シークワーサーの皮のほろ苦さと島の海風を封じ込めたような優しく甘露な味わい。こんな優しい味のジャムを食べたのは母のお手製ジャムか、その昔、軽井沢で買った中山農園のこけもものジャムか。なんだかとても懐かしい味だ。

瓶の底に指を突っ込んで最後の最後まで楽しんだ私は、思い切って宜野座の工房を覗いてみようと思い立った。そして豪雨の中、那覇から宜野座まで約56キロ、途中横風に煽られながらのらのらと北上。
ぐるぐる探してやっと見つかった「ぎのざジャム工房」。
迎え入れてくださった知名幹夫さん、美佐子さんご夫婦の穏かな表情からは、宜野座の暮らしのリズムやテンポが伝わってきた。

突然の訪問にもかかわらず何種類ものジャムを試食させていただき、ジャム作りについてお話しを伺うことができた。
どのジャムも土地の季節の果物をそのまま瓶に封じ込めたような自然味溢れる味わいで、色使いにも心配りされているようだ。宜野座特産の苺、ドラゴンフルーツ、グアバと三層になったジャムは微妙な色のグラデーションが愛らしい。
バナナと黒糖とココナツのジャム、青マンゴーのスパイスジャムなど食べたことも見たこともない味やその種類に圧倒された。
さらには手描きのラベルも愛らしい。
ジャム作りの話を熱心に語る美佐子さん。
何か閃くと表情がくるくる変わる少女が、そのまま大人になったような感性の持ち主だった。
私がいかにこのジャムに魅了され、東京のセレクトショップや有名デパ地下にあってもおかしくない味だと言うと「実はこのあいだ、某有名セレクトショップからもお話がありました」とのこと。
なるほど、味のわかる人がこの味を放っておくわけがないのだ。
ぎのざジャム工房の味はクチコミでどんどん広がってゆくことだろう。
その土地のものを食べる。
そしてその自然の風味を瓶に封じ込めること。研究に研究を重ね、何度も挑戦してたどり着くその味。
沖縄の雨や太陽や海風に触れて育った果物の香りや味が口の中にいっぱい広がる、ぎのざジャム工房のジャム。
東京で夏バテ気味の私は、沖縄風味の食卓で楽しいひとときを過ごすのだ。
