万年筆で散歩道描く 川崎市幸区の小林さん企画展 31日まで大山街道ふるさと館

 万年筆を持って散歩しながらスケッチする川崎市幸区の小林廣志さん(74)の作品を集めた企画展「万年筆で画(か)いた川崎の風景」が、同市高津区溝口の大山街道ふるさと館で開かれている。約7年半の間に道の途中で出合った印象的な風景作品約40点を展示。小林さんは「大好きな青いインクの風合いで風景を記憶に残したい」と語る。

 自宅近くの多摩川を散歩していた2011年1月、寒気が襲来して黒い雲が空から降りてきた迫力ある自然を目の当たりにしたのがきっかけ。その風景を、持参していた万年筆でノートに「思わず描いた」。

 その後はポケットに入るA6判サイズのノートと万年筆を常に持ち歩き、市内や都内を中心にスケッチを続けた。作品はノート8冊分、約900点になり、企画展では大山街道沿いの土蔵造りの商家、高津区や宮前区の歴史ある寺、多摩川と富士山、川崎大師の風鈴市などを選んで展示している。

 小学生の時、親戚から贈られた万年筆が大好きになり、会社員時代は社内文書を万年筆で書いた。いまは形状が気に入ったフランス製を愛用。インクは2種類を自らブレンドし、市販品にはない自分だけの青色にこだわっている。

 お気に入りの作品は高津区にある二ケ領用水・久地円筒分水の風景。「みんなに平等に水が届くようにと願い造った当時の人々に思いをはせ、1時間以上かけて描いた」という。

 散歩スケッチは日記も兼ねる。散歩の経路や天気だけでなく、主な地点への到着時間を分単位で記録。自宅を出てからの歩数、距離、所要時間も歩数計のデータを基に書き留める。最も歩いたのは、11年3月9日に自宅から東京の五反田駅前を往復した時。4万1843歩、23・01キロ、374分と記した。

 小林さんは「まちの景色は毎年変わる。その瞬間しか描けない風景はいとおしく、これからもスケッチを続ける」と話している。

 企画展は31日まで。入場無料。問い合わせは、同館電話044(813)4705。

万年筆でスケッチを描く小林さんと作品=川崎市高津区の大山街道ふるさと館

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