19人の「あなた」へ やまゆり園事件犠牲者、今年も匿名

 ヤマユリの花で彩られた祭壇に在りし日の笑顔を重ねた。津久井やまゆり園殺傷事件から間もなく2年。23日、相模原市内で行われた神奈川県主催の追悼式では、犠牲となった19人のエピソードが読み上げられた。だが昨年同様、そこには遺影も、故人の名前もない。事件の風化が懸念される一方、匿名にせざるを得ない社会のありようを映した。

 「サクランボ狩りを楽しんでいたあなた」「夜空を彩る花火を仲間と一緒に見上げていたあなた」-。スクリーンにやまゆり園の日常が映し出される中、匿名の19人の人柄が紹介される。

 エピソードを読み上げた黒岩祐治知事は会見で苦しい胸の内を明かした。「本来なら氏名を公表すべきだが、(遺族が)どれだけ大きなことが起きるかと考えるとやはり恐ろしいということなので。ご家族というより社会全体の問題だと思う」。社会的弱者に対する差別や偏見は今もなお存在し、「現時点では機が熟していない」と続ける。

 県によると、氏名公表に理解を示す遺族もいるが、総意を得るのは難しいという。家族会の大月和真会長は「まだ乗り越えられていない。だいぶ時間がかかると思う。今はそっとしておいてほしいという心境」。園を運営する「かながわ共同会」の草光純二理事長も「匿名とすることが逆差別とは思わない。差別にならない背景をつくることが大事」と指摘する。

 ただ、緩やかに、園の再生に向けて歩を進めている。5月には建て替えに向けた解体工事が始まり、仮移転先の芹が谷園舎(横浜市港南区)から家庭での暮らしに近いグループホームで生活を始めた人もいる。

 入倉かおる園長は「亡くなった方たちに、芹が谷で元気で過ごしましたよ、一年無事に乗り越えましたよということをお伝えしたかった」と語り、誓った。「19人のご遺族が同じ考えになるのは難しいと感じている。お一人お一人のお気持ちに寄り添っていきたい」

黙とうする黒岩知事(前列左から2人目)ら参列者=相模女子大学グリーンホール(代表撮影)

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