平和あってこそ

 大見出しが二つ、本紙に並んだ。リオデジャネイロ五輪があったおととしの8月10日の1面である。長崎原爆の日の祈りと、体操の男子団体総合、つまり「内村日本」の金メダルの栄光と▲焼け野原になった長崎で戦後、平和希求の芽が出たこと。長い年月を挟んで、五輪という「平和の祭典」で世界が見とれる花が咲いたこと。二つの記事を「平和」の一語がつないでいるように感じた覚えがある▲東京五輪の開幕まで、きょう24日であと2年。原爆の日と五輪とは、ともに平和に通じるだけでなく、時期も重なる。東京五輪の閉幕は8月9日で、長崎原爆の日に当たる▲その不思議な重なりにいくらか感嘆しながら、一方でこう思いもする。8・9は鎮魂と祈りに包まれる日だということが、五輪の熱気のあまり、ひょっとしたら忘れられはしまいかと▲1964年の東京五輪の開会式で最終聖火ランナーを務めた坂井義則さん(故人)は広島原爆が落とされたその日、広島県に生まれた。聖火台の脇で掲げられたトーチは、平和あってこその五輪だと高らかに告げたことだろう▲それから56年を経て、原爆の日の頃、被爆国でまた五輪が開かれる。平和あってこそ、と世界に告げる場や機会ならばきっとある。被爆を脇に置いての「平和の祭典」にはするまい。(徹)

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