人海戦術で雨雲を見切ったメルセデスのチーム力【今宮純のF1ドイツGP決勝分析】

 F1第11戦ドイツGPはルイス・ハミルトンが逆転勝利。ポールポジションのセバスチャン・ベッテルはまさかのクラッシュリタイアとなってしまった。F1ジャーナリストの今宮純氏がドイツGPを振り返り、その深層に迫る──。
 
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 右か左か――『運命の分かれ道』、ハミルトンはピットレーンからコースへと、左に横切って戻った。52周目、雨が落ちてきているホッケンハイム、メルセデスはステイアウトかピットストップか浮き足立ち、混乱した。

 旧ザックス・ヘアピンでクラッシュしたベッテル。オランダ応援団席のすぐ横だったからどよめきが彼の背中に刺さった。軽くバンク角度がついているアウト側にはみ出る寸前、やや右方向に滑った。わずかなオーバースピードか、白煙はなかったがややロックアップし、ベッテルをもってしてもコントロールできず、まっすぐアウトだ……。

 この周の前からハミルトンにぐいぐいギャップを詰められていた。ラップタイム差を見れば歴然である。44周目から毎周1.5~2秒もハミルトンがまさり、22.892秒あったギャップが51周目には12.164秒差。いっきに10秒も短縮されたのだ。これをフェラーリ側が彼に無線でどう伝えたのか、伝えないはずはないだろう。

 この前に2度、28周目と37周目には右前輪をロックアップ、後輪のオーバーヒート症状も訴えていた。さらに47周目にはフロントウイングの左上部パーツが最終コーナーではじけ飛んでいる。

「すべて自分のミス」と自戒するベッテルだが、部分ごとに濡れ乾きの路面コンディションで彼のフェラーリはハミルトンのメルセデスに比べ、“苦戦”を強いられていたと読みとれる。今後、ウェット・パフォーマンスの差異の参考になるかもしれない。

――2年ぶりホッケンハイム、ハミルトンとベッテルの運命を分かつような、流転の18年チャンピオンシップを我々は見た。敗れたベッテルが8歳だった95年、雨の第1シケインでミハエル・シューマッハーを初めて見たというエピソードを想い出す。近くのヘッペンハイム生まれの彼はまた地元で勝てず、来年もうその機会がなさそうなドイツGPが終わった。

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