ヤンゴンに大地震が来る恐れはないのか 20年に一度の割合で大地震が発生していた ミャンマーの地震状況を改めて検証する  1月12日の地震はミャンマー中央部を震源地とするM6の強震だったが、ヤンゴンでもかなりの揺れを感じた。バンコクでも揺れたという。これまで地震に対しては全く無警戒だっただけに、これでやや目が覚めた感がある。ミャンマーは大丈夫なのか

ヤンゴンに大地震が来る恐れはないのか 20年に一度の割合で大地震が発生していた ミャンマーの地震状況を改めて検証する

[ミャンマー中央部に地震が集中 ヤンゴンも安閑としていられない](

年明け早々の先月12日未明、ミャンマー中央部でM6.0の地震が発生し、ヤンゴンでもかなりの揺れを感じた。アメリカの地震調査機関(USGS)の発表によると、震源地はヤンゴンから北西に186㌔の地点だった。この地震のあとにも、同地域でM5.3の余震が3度発生した。ちなみにこの地震の影響で、タイ北部チェンマイ、中部ノンタブリやバンコクなどでも揺れを感じたという。
滅多に地震がこないヤンゴンにいると、どうしても地震への恐怖や警戒感が薄れがちだ。
だから久々に大きな揺れを感じた今回の地震には少々不気味な感じさえした。しかしよく調べてみると、ミャンマーは想像以上に地震が多発している地震国だということがわかる。1930年から56年にかけての26年間だけでも、M7.0以上の強い地震が6回も発生している。
最近では2012年に国内中央部でM6.8の地震が発生し、数百人が負傷、26人が死亡した。また一昨年の2016年には古都バガンでもM6.8の地震が発生し、多くの寺院が崩壊した災害はまだ記憶に新しい。
ミャンマー国内には活断層(Active Fault)が多数存在しており、中心部を南北に走るザガイン活断層(Sagain Fault)はとくに有名で、最近では内外からこの断層の動きに警戒感が増している。専門家の中には、このあたりの断層が年に約2cm程度ずれていと指摘する人もいる。
しかもミャンマーには、南中国プレート(South China PLate),インドプレート(Indian Plate), ビルマプレート(BurmaPlate),スンダ・プレート(Sunda Plate)といった活断層が国内西北部のこのザガイン断層あたりでぶつかり合っているとも推測されている。
活段層という点に関していえば、2004年12月に発生した「スマトラ沖地震」は、スマトラ島南側沖 (スマトラセグメント)の長さ420km、幅240kmの断層が平均5 - 20mずれ、次いで中央部(ニコバルセグメント)の長さ320km、幅170kmの断層が5m、さらに北側(アンダマンセグメント)の長さ570km、幅160kmの断層が2mずれ、全体として長さ1,200 - 1,300kmの広大エリアが震源区域になった。
この大地震はM9.3という巨大なもので、1960年に発生したチリ地震のM9.5に次ぐ史上最大級の大地震であった。震源はスンダ海溝に位置し、インド・オーストラリアプレートがユーラシアプレートの下に沈み込むことによる海溝型地震の多発地帯の中にあった。これにより、ビルマ・マイクロプレートの歪みが一気に開放されたという。
地震の揺れは震源の南端では3分ほど、インドネシアのバンダ・アチェなど少し離れたところでは6 - 7分続いた。遠いところではバングラデシュ、インド、スリランカ、マレーシア、ミャンマー、シンガポール、タイ、モルディブまで伝わったほか、こうした国々の海岸地域に、津波による甚大な被害をもたらしたことはまだ記憶に新しい。こうしてみると、活断層は、ミャンマー一国のみならず、ASEAN諸国、特に地震多発国インドネシアの断層ともリンクしていることがわかる。
過去の記録を見ると、ミャンマーでは20年から30年に一度の割合でM6程度の地震が起き、100年に一度の周期でM7から8以上の巨大地震が発生しているという。ちなみに、主な大規模地震の発生年月と規模をあげれば、1912年5月12日(M8),1918年7月8日(M7.6),1931年1月27日(M7.6),1941年6月26日(M7.7),1946年9月12日(M7.5),同年9月15日(M7.75),1947年7月29日(M7.9),1950年8月15日(M8.7)などが記録されている。
こうした大地震の大半は、やはり国内中央部に集中しているが、1931年に発生した地震は、ヤンゴンから北東に約80Kmのところにあるバゴーが震源地だった。バゴーの観光名所である「シュエモード・パゴダ」には、この地震で落下したパゴダの頂上部が今もそのまま置かれている。こうしてみるとヤンゴンとて決して安閑としてはいられなくなる。

[日本は地震頻度で世界第4位 年平均死亡者数で世界第7位](

ミャンマーの場合はヤンゴンやマンダレーといった都市部での地震災害が少なく、ここ20年に限ってみても、都市部ではさしたる地震災害はない。だからあまり切迫感がない。
それに比べると、日本は言わずと知れた地震大国である。1995年1月17日に発生した戦後最大といわれた「阪神淡路大震災」(M7,3)、2011年3月11日に起きた日本周辺観測史上最大といわれた「東日本大震災」(M9)、さらに一昨年4月1日に起きた「熊本地震」(M 6,5 )などの巨大地震を例に出すまでもなく、日本は大小様々な地震に見舞われている。
しかし、内閣府の「平成26年版災害白書」の付属資料によれば、M5.5以上の地震の頻度(1980年から2000年にかけての20年間の年平均回数)を見ると、日本は年1.14回であり、中国の2.1回、インドネシアの1.62回、イランの1.43回に次ぐ、世界第4位となっている。これは意外だった。ちなんみに、この後にはアフガニスタン、トルコ、メキシコ、インド、パキスタン、ペルー、ギリシャ、フィリピン、イタリア、などの国々が続く。
ただ中国の地震頻度が世界一であるといっても、国土面積が広大なので特定地域における被災確率はそれほどではないと考えられている。逆に小国で頻度が高ければ被災確率は高まることになる。
そこで国土面積当たりの地震頻度を算出してみると、例えば各国が日本と同じ国土面積であるとしたら年平均地震回数は一体何回になるかというデータも指標化されている。
この場合はコスタリカが2.44回と世界一となり、次いでキプロス、アルメニア、エルサルバドル、ギリシャが続き、日本はこれに次ぐ世界第6位となっている。
さらに、地震頻度が同じでも人口密集地にどれだけ大規模な地震が起こったか、また地震災害に対する脆弱性の違い(家屋構造、防災体制等)によって被災死亡者数は異なってくる。過去20年間の年平均の地震災害の被災死亡者数で見ると、イランが2,251人で最多。これにアルメニアの1,191人、トルコの950人が続き、日本は281人で世界第7位となっている。
このように、指標のとりかたによって順位は異なってくるが、いずれの場合でも日本は常時ベストテンに入る地震大国であることが指標からもわかる。

[都市部の大地震では甚大な被害が 地震災害への新建築基準を創案中](

こうしたデータからから見れば、ミャンマーは蚊帳の外に置かれているようにも思えるが、しかしミャンマーの都市部をM5,5以上の大地震が襲った場合、建築構造や防災体制の脆弱さにより、甚大な被害が出ることは予想されている。
そのため建築物倒壊が相い次いだ3年前の2015年のネパール地震の直後に、ミャンマーでは改めて建物の災害耐性への疑問が提起された。ミャンマーエンジニア連協会(MyanmarEngineering Society:MES)は、建設、開発業者に対して建築基準(National Building Code)を遵守するように促している。
ミャンマーの新しい建築基準は未だ草案の状態であり、法制化にはにまだかなりの時間が必要とされている。専門家は、法制化されるまでは建設、開発業者の自主的なガイドラインに依存しなければならないのが現状だとしている。
MESの代表者で建築基準の起草に携わったU Kyi Lwinは、いくつかの建設業者及び開発業者は建築基準を遵守しているが、認知度はまだ広がっていないと述べた。専門家は、地震の発生により、ミャンマーが早急に建築基準を改善及び対処していく必要性があるを喚起させ、国内で地震が起きた場合、建築基準は破壊を軽減するのに役立つものであることを再認識させると、述べた。
また、国内の建築基準が国際基準に比べて脆弱であることは、国内の建物の品質が不規則になることを招くとも指摘する。業者は異なる国際基準又は現地の慣習に沿っており、建物の製造品質は非常にバラつきがあるという。
MESは現在英文で起草された文書をミャンマー語に翻訳中で、完成次第、建設省に提出し、修正が加えられたうえで、議会の承認を待つ予定だという。
その建築基準の草案は7つの章からなり、構造、健康及び安全並びに建設サービスまで含まれているという。第3章の構造部門は自然災害に耐える建物を造ることを記述している。また全ての建物は一定のリスクに直面しているが、資格の無いエンジニアが基準に従わずに建築されたものが最もリスクが高いと、警告している。
「私たちはライセンスを持たないいくつかの建設業者を知っている。彼らは大工(carpenters)たちのみで建てた。これらの建物は強い耐性を有していないため、地震が起きた際、建物は危険にさらされる」とU Kyaw Thuは述べた。
国連のUN-Habitatは、ザガイン、バゴー管区とシャン州のタウンゴーシティーの範囲を調査し、危険地区を明らかにする地図をすでに作成している。調査結果はその後地方政府に報告された。地方政府は電力事業及び工業地帯の建設、町の拡張のときに、地震の発生場所の危険地域を示した地図を参照することが出来るという。U Kyaw Thuは、次の段階はヤンゴンとピー管区を調査し、2つの報告書を完成させることを目指しているとも述べた。 (Myanmar Times 2015年5月7日より)

[軟弱な地盤には「べタ基礎工法」を ミャンマーでも採用を奨励すべき](

ミャンマーに比べて地震発生頻度の高い日本では、建物の耐震性への要求が高いため、大地震でも建物倒壊による犠牲者は比較的少ない。これは、2008年の中国四川省で起きた大地震で、大勢の市民が建物の下敷きになったこととは対照的だ。この違いは一体どこにあるのか。
中国メディアは、日本の建物が地震でも容易に崩壊しないのは中国の建物に比べて「基礎」部分に大きな違いがあるためだと指摘した。
記事によれば、日本のように一戸建て住宅が多い中国の農村部では、地盤の質が劣悪であることが多いという。地盤のしっかりした、建物を建てるのに向いた土地にはすでに家が建っているため、新しく建てられる家の多くが池や泥沼といった軟弱な土地に建てるしかなく、1、2年もしないうちに壁にひびが入ったり窓が変形していると嘆いた。
では日本はどうしているのか。日本でも地盤の弱い土地に家を建てることはあるが、数年でひびが入るというのは、よほどの欠陥住宅でない限りまずない。なぜなら、日本では「基礎工事」を重視しているからだ。デコボコの石を隙間だらけのまま並べて基礎工事としている中国とは対照的に、日本では「ベタ基礎」が広く採用されているからだ。
ベタ基礎とは、建物の底面全体をコンクリートで固めたもので、やや地盤の弱いところでも沈下しにくく、地震に強い特徴がある。また家屋のねじれを避け、亀裂などの問題も避けられる。中国メディアの記事では、阪神淡路大震災のあとで見直されるようになったこの工法について、水田が多く、池、泥沼など軟弱な地盤が多い中国の南方でもこの工法は採用するに値すると指摘している。
しかもこの工法は施工もそれほど難しくないという。大切なのは一つ一つの手順を手を抜かずに行うことだという。記事は最後に、「このような基礎があれば、地盤沈下による家屋の変形を恐れる必要などなくなる」とし、日本の基礎工事の方法を称賛した。
建築において安全は何よりも重要だが、中国では2009年に上海市内で建築中だったマンションが突然仰向けに倒れるという事故も発生している。中国でいかにずさんな建設が行われているかを示す例だが、時折大規模な地震が発生する中国でも、日本のようにしっかりと基礎工事を行えば、万が一の地震でも多くの人命が助かるかもしれない。 この話は、ミャンマーの地震対策にも当てはまるのではないか。特に国内の地方の地盤の弱い場所にはこのべタ基礎工法を奨励すべきではな
いのか。コンクリート素材の原料となる石灰岩ならミャンマーは豊富な埋蔵量を誇っているので、国内調達が可能だからだ。 この国の都市部ではミャンマー人は高層階に住むのを嫌うという。反対に日本人は眺望のよさを好むという。しかし、新しく建てられた高層建築住宅やオフィスならともかく、古い建築基準で建てられた建物は、こうした地震災害には脆弱であるという認識の上で入居すべきだろう。そして緊急時の避難法なども常に頭に入れておくべきだろう。

米国地震調査研究所資料
内閣府「平成26年度版災害白書」
名古屋大学環境学研究科附属地震火山・防災研究センター資料
日本応用地質学会
平成17年度研究発表会資料
デトロイトトーマツ企業リスク研究所資料
CNS他

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