日韓関係を見据え

 対馬から盗まれた仏像の所有権を巡る韓国内の訴訟で、先日興味深いニュースが報じられた。「仏像は日本に返還し、複製品を作って韓国の浮石寺(ブソクサ)に保管してはどうか」と現地の大田(テジョン)高裁が提案したというのだ▲対馬市の観音寺から県指定文化財の「観世音菩薩坐像(かんぜおんぼさつざぞう)」が盗まれたのは2012年。翌年韓国で犯人が拘束され、仏像が見つかった時は、即時返還かと思ったが▲「仏像は倭寇(わこう)がわが寺から略奪した物」と浮石寺が所有権を主張し、話が複雑になった。像を盗品として保管する韓国政府がそれに反論し、現在二審で係争中。そんなさなかの裁判所の提案だった▲仏像が観音寺に伝来した事情は今となっては分からない。だが、朝鮮王朝初期には仏教を排斥した時代があった。対馬の郷土史家は、受難の仏像を正規に譲り受けたという見方をとる▲対馬は古代から日本列島と朝鮮半島との交流を橋渡ししてきた。緊張や対立が一時的にあったとしても、平和的な通商関係を保っていた期間の方が長い。仏像の処遇を外交問題にはしたくない▲高裁は「千年万年が過ぎれば新しい仏像も意味があり、韓国と日本に双子の仏像ができる」という見解を示したと聞く。未来の日韓関係を見据えた提案だと受け止めたい。対馬の人が待ち望む朗報となる決着を期待している。(泉)

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