〈時代の正体〉「弱者にやさしい」に違和感 川崎市諮問に有識者会議「強者の論理」

【時代の正体取材班=石橋 学】川崎市の福田紀彦市長は25日、有識者らでつくる市人権施策推進協議会(会長・建石真公子法政大教授)に「『弱者にやさしい川崎』を目指した人権施策の在り方」を審議するよう諮問した。2020年3月末までに答申をまとめるが、委員からは「『弱者』という言葉は人権上、配慮されたものだろうか」と、諮問事項から伝わる市の姿勢や基本的な認識に対する疑問が相次いだ。

 同協議会は市の付属機関として15年に設置。今年3月には第2期の協議会が「差別や偏見のない社会を実現するための施策」について、市に答申した。

 市は4月からの第3期協議会に対する諮問目的について「グローバル化など社会構造の変化で、貧困や社会的な孤立などのリスクが高まっている。これらのリスクは人権侵害と表裏一体」との認識に立ち、「とりわけ社会生活上、弱い立場に置かれている市民の人権が尊重され、尊厳が守られる施策の在り方を再確認し、着実に取り組んでいくため」と説明した。

 これに対し、委員からは諮問事項に示された「弱者にやさしい」との表現への違和感の表明が相次いだ。「強者からのまなざしを感じる」「強者が弱者の面倒を見るというのは古い考え方。人間を弱い立場に追い込む社会や制度を変えていくのが人権施策」などと、人権に対する市の認識への疑問が呈された。

 建石会長は「人を弱者たらしめる条件をどう変えていくのかを考えていく」とのスタンスを表明。次回以降、第2期の答申で課題とされた人権が侵害された際の救済制度や、性的少数者(LGBT)の人権課題について審議することを決めた。

◆委員「人権行政の劣化」

 「マジョリティー中心の社会を残したまま、マイノリティーの面倒をどう見るかという考え方ではなく、両者の関係を変えていくことを通して社会を変革していく。川崎市の人権施策はそういう方向を目指してきたはずだ」。第1、2期で市人権施策推進協議会の会長を務めた阿部浩己副会長(明治学院大教授)は「弱者にやさしい川崎」という諮問事項の表現への「強い違和感」をそう説明した。

 2015年策定の人権施策推進基本指針「人権かわさきイニシアチブ」では「一人一人の尊厳を最優先する『川崎らしい』人権施策を、平等と多様性を尊重しながら推進する」とうたう。各種の社会保障制度から排除されてきた在日コリアンの声を受け、市が「共生」に転じたのは1970年代のこと。国籍が違っても人権が等しく認められる存在であり、共に生きる市民なのだと認識することが、先進的と評されてきた「川崎らしい」人権施策の原点だ。

 この日の協議会では、在日コリアンの排斥を繰り返し扇動する人物が計画したヘイト集会に、市が公共施設の使用を許可した問題で市当局から報告があった。同協議会の提言から策定されたガイドラインに関わり、現在進行形の重大な人権課題であるにもかかわらず当初議題に入っていなかった。

 建石真公子会長の求めで実現したが、非公開が条件。結果、この間審議を見守ってきた在日コリアンの当事者も退席を余儀なくされた。ある委員は協議会終了後、「長年積み重ねられてきた川崎市の人権行政の断絶と、それによる劣化を感じさせる」と憂えた。

福田市長からの諮問を審議した市人権施策推進協議会=川崎市川崎区

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