「ダメなら終わり」―西武5年目内野手を変えた秋山との自主トレ、水口の言葉

西武・金子一輝【写真:篠崎有理枝】

2013年ドラフト4位の金子一、1年目は「入ったところを間違えた」も…

 10年ぶりの優勝に向け、パ・リーグ首位をキープしている埼玉西武ライオンズ。6月13日には2016年のドラフト1位、今井達也投手が初先発初勝利を挙げ、新戦力として頭角を現すなど、若手の活躍にも期待がかかる。1軍を目指す若獅子たちを紹介する連載の第3回は、5月12日にプロ入り5年目で1軍初昇格を果たした金子一輝内野手だ。5月22日の敵地ヤフオクドームで行われたソフトバンク戦でプロ初安打となるソロ本塁打を放つなど、前半戦は1軍で6試合に出場し、14打数5安打の成績を残した。この結果には自身も「今出せる力をしっかり出すことができた」と、納得の表情を浮かべる。

 金子一は神奈川県の日大藤沢高から2013年のドラフト4位で埼玉西武に入団。日大藤沢高では甲子園出場はなく、ドラフトで指名があった時の心境を「夢みたいな感覚だった」と振り返るが、入団1年目はイースタン・リーグで打率.145に終わり、プロのレベルの違いを痛感したという。

「入ったところを間違えたな、と思いました。ピッチャーの真っ直ぐのキレが違う。戸惑いました。最初は球の速さに慣れるのが一番だと思って、自分のできることを試そうという気持ちでした」

 2年目もわずか34試合の出場に留まり、打率は.233。3年目以降も打率は2割前後と振るわず、5年目となる今シーズンは「ダメなら終わり」という覚悟で挑んでいる。

「年数的にも同じような数字を残していたら、これで最後だと思っています。来年のこの時期があるとは思っていません。なので、次の日のことを考えるのではなく、今日できることを思いっきりやる。明日疲労が残っていても、明日考えればいいと思うようになりました」

 今年は、今までとは比較にならない練習量をこなし、練習の質にもこだわるようになったと話す。意識を変えるきっかけとなったのは、秋山翔吾外野手と行った自主トレと、水口大地内野手にかけられた言葉だった。

「秋山さんとは去年から自主トレを一緒にやらせてもらっていますが、秋山さんは野球への取り組み方やグラウンドにいる姿勢など、考え方が全く違いました。ホテルにいる時も、お風呂に入っている時も、いつも野球のことを考えている。本当に勉強になることばかりでした。秋山さんの助言で、練習に対しても考え方が変わりました。今までは『練習しなきゃいけない』という気持ちでマシンやティーを打っていましたが、練習の時間を『自分と向き合う時間』と考え、その日の状態や最近の調子を考えながら打つようにしたら、1、2時間はあっという間に過ぎるようになりました」

過去3年間は「本当にもったいなかった」も…「過去には戻れない」

 また、昨年の納会で水口に部屋に呼ばれ、2人で話をしたことも大きかったという。

「水口さんは去年ずっと上にいましたが『俺ができたんだから、一輝ができないわけがない。もっとできると思う。変わってほしい』と言われて、それで『はっ』と気が付きました」

 金子一はそれまでの自分を「本当にしょうもなかった」と振り返り、後悔をにじませる。

「今までは野球を仕事としてやっていなかった。今はしっかり向き合って、仕事として野球をやれていると思います。今こうしてしっかり練習に取り組んで、意識的に変わった自分が過去の自分を見た時に『本当にもったいなかったな』と思います。1年目はついていくだけだから別にしても、2年目から4年目は本当に無駄にしてしまった。でも過去には戻れない。だからこそ、1日をやり切ろうと思っています」

 心を入れ替えて挑んだ今シーズン、4月にはファームで4割近い打率をマーク。5月12日にプロ入り初昇格を果たすと、5月22日の敵地ソフトバンク戦では、プロ入り初安打となる本塁打を放った。

「(初本塁打は)入るとは思っていなかったので、よくわからないままベースを回りました。もっと雰囲気を感じて走ればよかったです。ビジターの試合は、練習の時にお客さんが見えちゃって、めっちゃ緊張しました。人生で初めてバッティング練習で空振りしました(笑)。でも、子供の頃によく行っていた東京ドームのグラウンドにも立てて、嬉しかったです」

 6月1日に出場選手登録を抹消されたが、1軍で確かな手応えを掴んだ。今は、新たに見つかった課題に向かい、少ないチャンスの中で結果を残し、1軍に定着することを目標に置く。

「ファームの投手に比べて、1軍の投手の決めに来る変化球はそう簡単に打てる球じゃないと思いました。追い込まれてからのアプローチの仕方は変えていかなきゃいけないと思います。次に上に上がった時は、また変わった姿を見せられたらと思います」

「休みの日はずっと家で寝ています。遊びに行きたいんですけど、体が動かなくて…」。そう笑いながら話す23歳は、日々の練習の積み重ねが結果に現れたと信じ、過去の分までバットを振る。(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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